【陸上】桐生祥秀。底力を発揮して日本人初の銅メダル (3ページ目)
気温17度で向かい風0.6mと条件も厳しかったレースは、優勝を意識して硬くなっていたブロメルをケンダル・ウイリアムズ(アメリカ)が後半に突き放し、予選で出した自己ベストをさらに0秒02更新する10秒21で制す番狂わせとなった。その中で桐生は大きく崩れることなく、2位のブロメルに0秒06差の10秒34でゴールして3位に食い込んだ。
「股関節の周りが痛くなったのは、スパイクを履いて練習したのが出発する1週間前からだったので、体が慣れていなかったからだと思います。銅メダルを獲れたのは嬉しいけど、結果をみればダントツで負けた訳ではなく、優勝争いもできそうな状態だったから余計に悔しいですね。準決勝では9秒台を出しているブロメル選手が横にいたのでアレッ?と思ったところもあるんですけど、そこから自分がもっと行ける気もしたし……。だからこれからは、ブロメル選手に勝てるかどうかわからないけど、対戦したら絶対に勝つ気持ちでいきたいですね」
土江コーチは「ここに出場できるかどうかという微妙な時もあり、7月に入ってやっと走り出せた状態でギリギリ間に合ったという状況でした。どこまでやれるかという不安も大きくて難しい大会だったけど、すごく頑張ったと思います。彼の場合は本当に集中しなければいけないところできっちり走れるのが一番の特徴ですが、ジュニアといえど海外の試合でそれができたというのはたぶん初めてなので、すごく大きな収穫だと思います」と語った。
昨年4月の織田記念で10秒01を出してから注目され続けている桐生。8月には世界選手権も経験したが、あの時は、実力差が大きいシニアのビッグネームの選手たちに挑戦するだけの大会だった。
だが、今回はジュニア世界ランキング3位で、出場選手中では2位と、メダル獲得は確実と期待される中での挑戦だった。そんなプレッシャーもある中、体調も万全とはいえない上にアクシデントもありながらも、9秒台を持つブロメルなどと接戦を演じて最低限の仕事ともいえる銅メダル獲得を果たした。その意味は大きい。それは運だけで得たのではなく、自分の底力を十分に発揮して手にしたメダルだからだ。
「これで満足してるのではなく、ジュニアなのでもっと上を目指さなければいけないですね。今回得た、戦えるという手応えをもっと上のレベルにどうつなげていくかが課題だと思います」
初めての同世代選手との真剣勝負で勝負強さを見せた桐生は、この大会で次への戦いに向けての大きな一歩を踏み出したといえる。
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