【陸上】リオ五輪へ。頼もしい男子短距離陣の層の厚さ (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 藤田孝夫●写真 photo by Fujita Takao

 今大会、高瀬、飯塚らは、200m決勝の1時間45分前に予選が行なわれる100mを捨てて、得意な200m1本に絞ってきていた。

 桐生や山縣と競り合う力を持つ彼らが、200mだけに絞ったことに対して、伊東部長は「200mが活性化するというのはすごくいい事だと思う。100mと200mを兼ねている選手が100mではなく200mを選ぶというのは、今男子短距離が強くなっている過程にあるのを示すものである。停滞期に入ると選手たちはどうしても短い距離を選択しがちだが、長い距離を選択するのはこれからもっと伸びていく可能性を持っている選手が多いということ」と高く評価する。

 また優勝した大学4年の原についても「前半の走りはいいとはいえないが、後半の持続力は魅力的。これから海外のレースをたくさん経験して前半の動きがもう少しシャープになれば、世界に近づいていける選手になると思う」と話す。そうなれば彼もまた、100mと200mを兼ねる選手になれるという事だ。

 一方100mは、桐生が関東インカレ、世界リレーと続いた連戦に加えて、長距離移動や時差の疲労もある中で、予選では10秒15と、ポテンシャルの高さを見せた。決勝ではスタートで山縣が先行する展開に持ち込んだが、「スプリンターはライバルを意識すると、どの地点でどう差をつけようかとイメージする。だがそれでその地点に来た時に力んでしまうことがある」(伊東部長)というように、ともに微妙な誤算が起きた。

 山縣は「スタートでもっと差をつけるつもりだったが、予想したより早い20m過ぎで桐生に並ばれてしまった」という。

 桐生も「スタートで山縣さんが前に出るのを想定していたのでそこで力むことはなかった。でも並んでからは近くにいる事はわかっていたが、それを考える暇も無くゴールを目指したのでレースのことはよく覚えていない」と振り返る。

 それがわずかな固さを生み出し、40m過ぎで抜け出しながらもそこから大きな差をつけることが出来なかった。結局、10秒22で桐生が勝利し、山縣が0秒05差で2位という結果になった。

「レース直前まですごく緊張したのは久しぶりだけど、そこで力んで負けたのではなく勝てたので良かったと思います。前半で負けていても力まず追い上げるという力は、去年よりついたと思います」と桐生は話す。

 そこで競り勝てたのは「世界リレーでは堂々としている姿に強さを感じたし、この区間を任せておけば絶対に仕事をしてくれると確信させる、去年の山縣と同じような風格を感じた」と伊東部長が言うように、速さだけではなく強さを身につけたからだろう。

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