【陸上・競歩】大利久美
単なる「青春の思い出作り」から手にした五輪切符

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 甲斐啓二郎●撮影 photo by Kai Keijiro

  世界に挑む女神たち Vol.6

部活の先輩の「モノマネ」が
周囲の好評を得て始めた競歩

 昨年8月の世界選手権(韓国・テグ)20km競歩で入賞(8位以内)を狙いながらも、予想外のハイペースの展開に対応できず、20位に終わった大利久美。今年2月のロンドン五輪代表選考会となった日本選手権20㎞競歩では、日本記録保持者の渕瀬真寿美と、過去2回五輪に出場している川崎真裕美の、代表権を争うふたりが故障と調整不足で欠場。実質"ひとりだけ"の戦いとなった。

 代表内定条件は、タイム1時間30分突破、そして1位であることだった。
「スタートしたら思ったより体が動いたので、想定よりも速いペースで入ってしまった」と言う大利は、日本記録(1時間28分03秒)も狙えるスピードで歩きだしたが、4km過ぎに独走状態になると徐々にペースが落ち、基準記録突破も危うくなった。それでも、ラスト2㎞で盛り返して1時間29分48秒でゴール。女子20㎞競歩の五輪代表第1号に内定した。

 一躍ときの人となった大利だが、「まだ全然(五輪出場の)実感が湧かないんです。このあと、大きな怪我などがなければ(五輪出場は)大丈夫だと言われています」と、周囲の騒ぎをよそに、おっとりした表情で笑った。

 埼玉県の西武文理高で陸上を始めた頃、大利の頭の中には『五輪』という文字の欠片(かけら)もなかった。きっかけが、単なる思い出作りのようなものだったからだ。

「中高一貫の学校で、中学時代はスポーツとか何もやってなかったんです。それで、高校へ進むときに親友と『ちょっと青春っぽいことをしたいね。部活へ入ろうよ』という話になって、私がバドミントンか陸上、友だちはバスケットボールか陸上がいいと言って、『共通項は陸上だね。じゃあ、仮入部しに行ってみよう!』と。そんな、本当に軽いノリで陸上部に入ったんです」

 最初に始めた種目は中距離だった。仲間とお喋りしながら部室で着替えてグラウンドに集合するだけで、楽しくて仕方がなかったという。そして、高校2年生のときから競歩を始めた。これもまた、たわいのない理由だった。

「その頃、学校で先生などのモノマネをするのが流行っていて、私が1年上の競歩をやっている先輩の動きのマネをしたら、みんなに『上手い、上手い。競歩をやったらいいんじゃない』と言われて始めたんです(笑)」

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