【陸上】野口みずきの希望に満ちた6位「まだいけるかもしれないと思った。だから辞めません」

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by (C) Wataru NINOMIYA / PHOTO KISHIMOTO

悔しさからではなく、走りきれた安堵からゴールで涙をこぼした野口みずき悔しさからではなく、走りきれた安堵からゴールで涙をこぼした野口みずき 先頭集団を正面から映すカメラの映像の中に、ボンヤリ見えていた野口みずきの姿が、27km手前から徐々に鮮明になってきた。

 3月11日の名古屋ウィメンズマラソン。4年4ヶ月ぶりの復帰レースでロンドン五輪代表を狙った野口は、17km過ぎ、8人も残っていた先頭集団から遅れ始めた。それからしばらくは集団の少し後方で粘っていたが、最後のペースメーカーがレースから外れた23km地点では、30秒以上の差をつけられていた。

 だがその差を25km地点では27秒まで縮めていた。さらに先頭集団の25kmから1km毎のペースが3分28秒、3分31秒に落ちるのを、野口は3分25秒のペースでジワジワ追い上げた。そして27km手前から一気に追い上げ、28・9km地点で7人いた先頭集団に再び追いついた。

「呼吸は楽だったけど、途中で左ひざが抜けてしまって足が思うように動かなくなって遅れてしまった。そこから『諦めるな、諦めるな』と自分に言い聞かせて走っていたら、足が動くようになった」

 野口が言う膝が抜けるという状態は、膝の関節がきっちりハマらないような状態になり、力が入らなくなる症状のことだ。男子でも長距離のスピードランナーがそういう状態になる例がある。92年バルセロナ五輪男子マラソン銀メダリストの森下広一もその症状で引退に追い込まれたひとりだ。野口も大阪国際女子マラソンを目指す練習の一環として出場した、昨年11月20日に行なわれたオランダの15kmロードレースで、「9km付近から左膝がカクカクし始めた」と話し、11km過ぎで止まりかけたが、それに近い症状だったのだろう。

 そうなれば、普通の選手は諦めてスローダウンしてしまう。しかしそこで走りを戻せたのは、野口のロンドン五輪出場に懸けるラストチャンスへの執念からだった。

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