銅メダル獲得の瞬間「今がバトンを渡す時」。ゴールボール・浦田理恵が日本代表から引退、新たなステージへ (2ページ目)

  • 星野恭子●取材・文・写真 text&photo by Hoshino Kyoko

――市川喬一総監督は大会後、「浦田選手なくして、銅メダルはなかった」とおっしゃいました。チームメイトからも残念がる声が聞かれました。未練はありませんか?

「たしかに、(2024年の)パリを目指すうえで、やれなくはないかなと思う自分もいます。だけど、(その程度の)覚悟だけで勝てるほど世界は甘くないことも知っています。そんな覚悟では、トレーニングや試合のきつい場面で、私はたぶん、自分を追い込みきれない、きっとそこに甘さが出る。そして、追い込みきれない自分のことを、きっと私は許せないと思います。

 だから、未練はありません。ゴールボールは大好きだし、(代表選手とは)別の立場ですが、金メダルを目指すチームに関わっていくことは変わりませんから」

――もしかして、これからもゴールボールやチームに関わっていかれるのですか?

「はい。今年3月末まで、毎月の代表合宿にも参加していましたが、光栄なことに、日本ゴールボール協会より、『日本代表シニアアドバイザー』という新しいポジションをいただき、今後は男女日本代表チームのサポートに関わっていきます。技術指導というよりは、選手の相談相手やチームで起こっている時々の課題にアドバイスするといった立ち位置です。合宿に毎回参加するのでなく、要請に応じて適宜、対応していくことになると思います」

――代表チームには心強い存在ですね。そういえば、今年1月末、ゴールボール男女日本代表チームの愛称が公募によって、「オリオンジャパン」に決まりました。星座のオリオン座にちなんだ愛称で、中央の横に並んだ三ツ星がコート上のゴールボール選手に重なりますし、三ツ星を4つの明るい星が取り囲み、夜空でもとても存在感のある星座です。いかがですか?

「"オリオンジャパン"に込められた思いを聞いて、『これだ!』って感動しました。オリオンベルトの三ツ星が表す3人の選手は周囲の人たちがいてこそ輝き、パフォーマンスができる。ベンチとも観客ともつながって世界一を狙う、私たちの姿を表現した素敵な愛称だと思います。」

――浦田さんは今後、三ツ星を見守る外側の星としてゴールボールに関わられるわけですね。

「はい。実は、私自身もまだ国内での選手活動は継続し、国内大会にも出場する予定です。『私、まだまだ、やれるよ!』とアピールしながら、代表選手たちに世界で勝つための気合を入れ続けていきたいと思っています」

――まだプレーを見られるチャンスがあるのは、浦田ファンにも朗報です。

「競技の普及活動も含め、これまでどおり福岡市を拠点に活動します。地元の選手も増やしたいですし、競技に関わってくださるサポーターも広げていきたいです」

――とはいえ、代表活動からは一歩引く形となります。アクティブな浦田さんですから、他にも何か新たなプランなどがあるのではないですか?

「はい。スポーツは人に夢を与えられるし、人と人をつなげる、すごい力があると感じています。私はそれを17年間、選手としてパフォーマンスで体現してきましたが、これからは別の形で伝えていく活動ができればと思っています。まずは現在の所属先、シーズアスリートで、講演会や競技普及の体験会などをメインに活動して、スキルを磨いていく予定です」

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