2018.07.11

国枝慎吾、「履歴書」の更新なるか。
ウインブルドン初制覇へ秘策あり

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

「車いすテニス界のロジャー・フェデラー」

 男子テニス界の”生きる伝説”の名になぞらえ、彼は、そのように呼ばれている。

初のウインブルドン・シングルス制覇に挑む国枝慎吾 四大大会シングルスの優勝回数は「22」。パラリンピックの金メダルは、単複合わせて3つ獲得。34歳を迎えて今なお、国枝慎吾(ユニクロ)は世界の頂点に君臨している。

 ところがその彼が、まだ唯一、手にしていない栄冠が存在する。それが、ウインブルドン・シングルスのトロフィーだ。

 もっともそれには、理由がある。

 ウインブルドンで車いすシングルスが開催されるようになったのは、2016年のこと。その記念すべき第1回大会は、ひじの手術のために出場を見送らざるを得なかった。翌年もひじのケガからの復帰に苦しめられた国枝は、準決勝で無念の敗退。いまだ彼の輝かしい履歴書には、ウインブルドンの欄のみが空白のままになっている。

 その国枝が、今年は1月の全豪、そして先の全仏優勝を携(たずさ)えて「テニスの聖地」へと帰還する。それも、この2年近く取り組み続けてきた、新たなプレースタイルを携えてだ。

 2016年春にひじにメスを入れるも慢性的な痛みに苦しめられた国枝は、抜本的な解決を求め、ラケットからフォームに至るまで、徹底的な見直しをはかった。

 もちろん、彼を絶対王者の座に押し上げたスタイルを変えることに、恐れがなかったわけはない。とはいえ、以前の打ち方では、ひじに痛みが出てしまう。ただ、フォームを変えて痛みが消えたところで、勝てなければ意味がない――。その葛藤のなかで戦い続けた2017年は、四大大会シングルスのタイトルから見放された。

「もしかしたら、このまま完成せずにキャリアが終わっちゃうのかな……」

 そんな失意と迷いに襲われたことは、一度や二度ではなかったという。

 それでも彼を突き動かしたのは、王者のプライドを基幹とする、「それではつまらないな」という不敵なチャレンジ精神だ。