高木美帆が専門外の500mで銀メダルが獲れた理由。コーチの言葉で滑りに変化

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA

 北京五輪のスピードスケート女子500mは、驚きの多い試合になった。

 ひとつは、メダル確実と見られていた小平奈緒(相澤病院)が大失速したこと。スタート1歩目の左足を踏み出す時にブレードが氷に引っかかり上体が立ってしまって加速できなかった。100m通過が日本記録の時より0秒45遅い10秒72。「その瞬間に頭のなかが真っ白になってしまい、そのあとはもう歯を食いしばって最後まで滑るしかないと思った」と、38秒09で17位に終わったのだ。

銀メダルを獲得し、セレモニーでも笑顔を見せた高木美帆銀メダルを獲得し、セレモニーでも笑顔を見せた高木美帆この記事に関連する写真を見る もうひとつは高木美帆が、専門とは言えない500mで銀メダルを獲得したことだ。伸びのある滑りで後半の400mを全選手中最速の26秒71で滑り、37秒12という自己新記録をたたき出した。

 ここまで高木らしい滑りを発揮できず、最初の種目だった5日の3000mでは「最初のほうが攻めきれなかった」と6位。優勝候補筆頭として臨んだ7日の1500mでは、1分53秒台前半は出したいと狙いながらも届かず、1分53秒28の五輪新で滑ったイレイン・ブスト(オランダ)に敗れて2位。「悔しい気持ちや悲しい気持ちが交錯し、あまりポジティブな気持ちになれなかった」と落ち込んだ。そんな状態で500mは迎えていたのだ。

 だが、レース直前の練習でコーナーの滑りが、なめらかさがある上に力感とキレ、そして伸びがある好調さを感じさせるものに変わっていた。

 これまでの自己記録は、2019年3月に標高1034mのカルガリーで出した37秒22。それを今回は低地の北京で、なおかつ気圧が1023ヘクトパスカル(気圧が高いと空気抵抗が多い)という条件で、0秒1も上回った。これは信じられないような出来事だった。

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