トリノで目撃した荒川静香の「超人的な冷静さ」と日本メディアの愚行 (3ページ目)
急ピッチではあったが、完璧に演じられさえすれば、アメリカのサーシャ・コーエン、ロシアのイリーナ・スルツカヤという2強に肉薄できる演技に仕上げることができていた。
迎えたトリノ五輪のショートプログラム(SP)では、その2人と僅差の3位。フリーはひとつのミスも許されない極限のプレッシャーの中での戦いになった。
3人の中で、最初にフリーの演技を行なうことになったSP1位のコーエンは、冒頭の2つのジャンプを失敗。もともとフリーを苦手にしていて、SP後の練習で足首を痛めていた影響もあっただろうが、後に本人が「緊張のあまり体が震えていた」と明かしたように平常心を失っていた。
それに対して、次の滑走者となった荒川は冷静だった。3回転ジャンプのコンビネーションを3回転+2回転に変更するなど、とっさの判断でミスを回避。ジャンプ以外の要素でもレベル4、レベル3の高得点を獲得し、総合得点でコーエンを上回って暫定1位に立つ。
荒川の代名詞であるレイバック・イナバウアーが会場を大きく湧かせたことも、最終滑走者のスルツカヤに得点以上のプレッシャーを与えたのだろう。ミスの少ないスルツカヤが珍しくジャンプで転倒するなど、硬さが見える演技に終始する。結果は総合3位にとどまり、荒川がアジア選手として五輪フィギュア史上初の金メダルを獲得した。
勝つための決断と努力、本番で見せた類まれな集中力には、ただただ脱帽するばかりだった。荒川のほかにも、4位に入賞した村主章枝や、右足小指の骨折が完治していなかった安藤美姫、当時は「1枠」のみだった男子で8位に入った髙橋大輔の健闘も素晴らしかったのだが......。残念だったのは、リンクの外で日本のメディアがさらした"醜態"だ。
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