亡き千代の富士が"技と魂"を注入。モンゴル出身・千代翔馬の覚悟 (3ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by Kyodo News

 7月の名古屋場所、師匠は医師の忠告もあって途中から名古屋へ入る予定だった。しかし、「弟子にとっては大事な場所前。指導しなくてはいけない」と周囲の反対を押し切って場所前から名古屋に入り、稽古場に立った。それが、師匠から受けた最後の指導となった千代翔馬は、稽古場でかけられた言葉が忘れられないという。

「師匠から、何回も何回も『まわしをつかんだら絶対に離すな』と言われたんです。今は稽古でもその教えを守って相撲を取っています。死んでもまわしを離すもんかってね」

 千代翔馬の得意な形は、左四つ右上手で特に「右ならば、上手でも下手でも取れば自信があります」と明かす。師匠もその長所がわかっていたからこそ、最後まで「つかんだら離すな」と指導してくれたんだと、その言葉を噛みしめた。

 参考にする力士は、ほかならぬ現役時代の千代の富士だ。必殺の左前まわしをつかみ、強烈な引き付けで一気に相手を土俵の外へ持っていく力強い取り口。その理想の形を自分のものにするため、「今も、師匠の相撲をビデオで繰り返し見ています。少しでも師匠に近づけるように、どうしたらまわしを離さないで取れるのかを考えています」と技の研究に余念はない。

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