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病室での断髪式。異色のモンゴル
出身力士・時天空、涙の引退秘話 (3ページ目)

  • 武田葉月●文 text&photo by Takeda Hazuki

 最大の武器だったのは、柔道時代から得意としていた二枚蹴り、内掛けなどの足技。そのキレ味は抜群で、新小結に昇進した2007年春場所では、横綱・朝青龍、大関・魁皇、琴欧洲などから白星を挙げる活躍を見せた。近年では、足技にこだわらない押し相撲にも磨きをかけて、2013年名古屋場所では6年ぶりに小結に復帰するなど、30歳を過ぎても安定した力を示していた。

 それだけに、突然の発病を「受け入れられない」のは、当然のことと言えるだろう。

 それでも、「1日でも早く病に打ち勝って、土俵に上がりたい」という時天空本人の強い希望で、再検査のあと、早々に入院して抗がん剤治療を開始した。が、抗がん剤と放射線治療を続けることになれば、髪の毛が抜けることは避けられない。つまり、治療のためには、髷を切る必要があった。

 髷は力士の象徴である。ゆえに、簡単に事を済ませるわけにはいかない。入門から14年、相撲界では異例となる"復活を願っての断髪式"が、入門した当時の師匠(元大関・豊山の元時津風親方)をはじめ、兄弟弟子でもある現師匠の時津風親方(元前頭・時津海)、東農大相撲部総監督の安井和男氏、そして家族ら数人が見守るなか、病室でひっそりと行なわれた。

 美しく、つややかに結われた最後の髷が切り落とされると、その髷はガラスケースの中にそっと納められた。

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