【大相撲】名力士たちが語る、8勝7敗 逸ノ城のこれから (2ページ目)

  • 福留崇広●文 text by Fukutome Takahiro
  • photo by Kyodo News

 人気は沸騰した。成績も新関脇で勝ち越した。「初めての三役で勝ち越しはまずまずですよ」と北の湖理事長は及第点を与えた。歴代の大横綱でも新三役場所は、苦労している。

 北の湖は4勝11敗(1973年1月場所)、千代の富士も5勝10敗(1978年7月場所)だった。逆に1991年7月の貴乃花と2005年1月の白鵬は11勝4敗の好成績を収めている。つまり、新三役場所の成績だけで一概に将来を占うことはできない。普通の力士なら合格だろう。ただ、13勝2敗の快進撃を見せた先場所の衝撃があまりにも大きかっただけに、超スピード出世への期待値を考えると物足りなさを感じてしまう。

 期待された2けたに届かなかったことが、そんな感情を抱かせてしまう。大関昇進の内規は三役3場所で33勝以上。今場所10勝以上すれば、最短で来年夏場所の大関昇進への土台を築くこともできたが、その可能性はほぼ消えてしまった。

 星の中身を見れば、理由は明らかだ。横綱、大関の上位陣に14日目に稀勢の里をはたき込みで倒しただけで1勝5敗。3横綱、3大関時代の今、上位陣に5敗では10勝以上に白星を積み重ねることは不可能だ。新入幕の秋場所は、白鵬、鶴竜の2横綱と稀勢の里、豪栄道の2大関と対戦し3勝1敗だった。結果は13勝2敗。上位の壁に、2けたの白星ははばまれた。

「上位の人は研究している。立ち合いは低いし速い。自分は高いし遅いです」。12日目に大関・琴奨菊に完敗した後、駐車場へ向かう帰りの通路で逸ノ城は漏らした。

 北の湖理事長は言った。「初日の日馬富士の相撲を見て、みんなこう取れば勝てると分かったはずだ」。

 立ち合いで頭から突っ込まれ、右ののど輪で上体を起こされた。中に入られると苦し紛れにはたこうとするも、左の前回しを引かれ一方的に寄り切られた。立ち合いの踏み込みの遅さが怪物の弱点。中に入って速く攻めれば、攻略できることを上位陣は初日で見抜いた。

 加えて北の湖理事長は「体の大きい力士は、押されると腹を出す傾向にある。そうすると腰が伸びてしまう。上体が反る形になれば一気に持っていかれてしまう。そうなると、体が重いだけに自分の体重で体を支えきれなくなり後退してしまう」と分析。一気に攻め込まれると192センチ、199キロの巨体が大きなハンデになるのだ。

 明確な課題が浮き彫りになった新三役場所。一方で大きな手応えも得た。上位陣以外で土が付いたのは、中日の東前頭筆頭・栃煌山と千秋楽の照ノ富士だけだった。番付下位にほとんど取りこぼさなかったことは、確かな実力を証明した。

 逸ノ城と同じ所要4場所で新入幕を果たし平成の新怪物とうたわれた元大関・雅山の二子山親方は「かなり早い時期に上に上がる可能性を感じた」と断言する。敗れはしたが鶴竜との2分26秒2の激闘にその可能性を見い出したと言う。

「回しを引けば絶対に負けないという自信を持っている。確かに立ち合いは遅いですが、自分の形に持っていけば負けない相撲を取れるのは最大の武器。そして、あの腰の重さは驚異的」

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