【体操】内村航平が2度目のオリンピックで学んだこと。
「やっぱり五輪には魔物がいる」
『美しい演技』にこだわる内村航平は、ゆかでミスしたことに申し訳なさそうな表情を浮かべた 男子個人総合決勝、第3ローテーションの跳馬――。
最初の演技者だった内村航平は着地をピタリと決めると、ガッツポーズをして快心の笑みを浮かべた。ロンドン五輪3種目目になってやっと、『王者』らしい力強い表情が戻ってきた。
予選9位通過だった内村は、個人総合決勝では経験したことのない『あん馬』からのスタートになった。単調な印象で派手さはないが、ちょっとしたミスが命取りになる難しい種目のあん馬は、他の種目と比較しても、さほど高得点の出ない種目である。「少しだけ『どうしようかな』と思ったけど、あん馬をきっちりやれば流れに乗れると思った」と言う内村は、それを堅実にこなし、やや低い得点ではあるものの、まずまずの合格点といえる15.066点で、戦いをスタートさせた。
続くつり輪は、確実に技を決めながらも着地で小さく前に飛んでしまい、15.333点。しかし、得点の出にくいあん馬からのスタートながら、序盤2種目を終えると、跳馬スタートの2選手と、つり輪スタートの田中和仁に次ぐ4位につけた。
そうして迎えた3種目目が、高得点を期待できる跳馬だった。内村はDスコア(演技価値点)6.6点のシューフェルト(伸身ユルチェンコ飛び2回半ひねり)に挑み、完璧な出来を披露。さらに着地も、ピタリと止めた。得点は16.266点。高得点を叩きだし、第3ローテーションが終わった時点で合計46.665点と一歩抜け出し、内村の優勝パターンへと持ち込んだ。
競技初日の予選と、2日前の団体戦。内村はミスを連発し、もやもやした気持ちを常に抱えていた。しかし、それを吹っ切ってからの内村は、本当に強かった。次の平行棒を15.325点にまとめてトップを堅持すると、最終種目の鉄棒で、内村は『Dスコアを抑える』という珍しい選択をした。7.2点の構成から、F難度の離れ技のコールマン(コバチ1回ひねり)を抜いたのだ。
「前日の夜、森泉(貴博)コーチから、『ケガをしている山室(光史)に一番いい色のメダルを見せてやろう。そのためにもコールマンを抜いて確実にやろう』と言われたんです。僕はこれまでどんなときも、構成を変えずにやってきたから正直迷ったけど、今朝になって、直感で『自分らしくないだろうが、抜いてやろう』と決断したんです」
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