【月刊・白鵬】話題の「大物新人」が宮城野部屋にやって来た! (2ページ目)

  • 武田葉月●構成 text&photo by Takeda Hazuki

 ところで、春場所は別名「就職場所」と言われているのをご存知ですか? 学校を卒業して相撲界に入門する力士の多くが、この場所で初土俵を踏むため、そういう呼び名が付けられたのです。

 以前は、100人近い入門希望者がいた頃もあったそうですが、今年は30名ほどの新弟子が入門しました。うれしいことに、ウチの部屋(宮城野部屋)にも、新弟子がひとり入ったんですよ。名前は、山口雅弘クンです。

 実は彼、表向きは新弟子なのですが、普通の新弟子とは違って、学生時代に数々の実績を積み重ねてきた"ビッグルーキー"なのです。高校1年生で高校横綱に輝き、日大では相撲部の主将を務めていました。大学4年生だった昨年の国体では、成年の部で見事個人優勝。幕下15枚目格付け出しの資格を引っ提げての入門です。

 以前、知人を通じて山口クンと会ったとき、「ウチの部屋に来ないか」と誘ったことがあるのですが、大物だけに、まさかそれが現実になるとは思ってもいませんでした。

 学生時代に揉まれてきただけあって、さっそく稽古場でもかなりの実力を見せています。春場所で7戦全勝すれば、ひと場所で十両昇進ということもあり得ます。性格も素直なので、私も鍛えがいがあります。なんとか山口クンを引き上げて、将来は東西の横綱を張りたいな......などと、今は大きな夢を抱いているところです。

 かくいう私も、12年前の春場所で初土俵を踏んだひとりです。

 その当時、「どうしても力士になりたい」と思っていたわけではないのですが(笑)、力士志願の数人の仲間と一緒に、大阪・大東市の摂津倉庫相撲部にお世話になりながら、稽古をしました。仲間たちが次々に相撲部屋にスカウトされていく中、帰国前日まで私には声がかかりませんでした......。そんな私が横綱になるのですから、人生とは本当にわからないものですね。

 あれから時は過ぎましたが、摂津倉庫相撲部が私の原点であることは変わりません。春場所のために大阪に来たら、必ず顔を出して、当時のことを思い出すようにしています。

 また、あのとき一緒に来日した千昇(式秀部屋)が、この春場所で12年の下積み生活を経て、ついに新十両に昇進しました。彼の努力が実って、本当に良かったです。春を迎えるからなのか、うれしい出来事が重なります。

 だから、私も気合いが入っています。場所前にはいろんな部屋に出向いて稽古をしてきました。宮城野部屋の大阪宿舎は堺市にあるのですが、同市には出羽海部屋など他の相撲部屋もいくつか宿舎を構えているため、出稽古をするには絶好の環境なのです。タイプの違う関取衆と稽古できたことは、いい刺激になりました。

 大関・把瑠都の綱取りがかかっているとはいえ、先場所優勝をさらわれた私としては、把瑠都の2場所連続優勝だけは、何としても阻止しなければいけません。春場所では「さすが横綱」と言われるような相撲を、皆さんにお見せしたいと思っています。

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