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宇野昌磨が引き立てる本田真凜の"美しさ" 『Ice Brave2』で進化するふたりのダンス「これからどんどんよくなる」 (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki

【伝わってくる氷上の楽しさ】

 村元哉中、高橋大輔のふたりが広げたアイスダンスの世界は、多くのスケーターに伝播した。チャレンジする敷居を下げ、より身近なものになった。シングルから転向し、挑戦する選手が増えた。

 宇野は表現者としてのアイスダンスの取り組みだが、その真剣さは競技者にも負けない。ダンスは「シングルとはまったく違う競技」と言われる。スケート靴からして違い、エッジは短く不安定で、生半可な気持ちではできないのだ。

「まったくの初心者だったんで、とにかくふたりで手をつないで滑りながら始めました」

 昨年7月のインタビュー、宇野はそう振り返っていた。

「(高橋)大ちゃんとかうまい人や、世界一のアイスダンサーの演技を見ながらって感じでした。とにかくシングルとは違うので......たとえば、シングルは自分の体の中心に軸があるじゃないですか? でも、ダンスはふたりの間、ど真ん中に軸があって、外でのスピンでは相当なスピードが必要になるんですよ。

 体感で言うと、とんでもなく速い。外側から見ると、そうでもないんですけどね(笑)。最初は戸惑ってしまい、難しかったです。ただ、僕はできないことをできるようになるところに成長を感じられるし、その瞬間が好きなんだなってあらためて思いました」

 何よりふたりがアイスダンスを踊る時、氷上での楽しさが伝わってきた。それがショーとしては大事な要素だ。

 本田は現役時代、世界ジュニア選手権で優勝するなど「天才少女」の称号をほしいままにしてきた。ジャッジでジャンプの比重が高くなるなか、重圧で伸び悩むことになったが、演技力で言えば日本人選手トップクラスで、今は居場所を見つけた様子が見える。リンクでの明るい表情から楽しさが伝わって、感情を解放し、観客とも一体になれているのだ。

 宇野は、その本田と調和することで、お互いの力を最大限に引き出し合っていた。もちろん、アイスダンスは甘くはない。たとえば『Ice Brave』の千秋楽、ふたりは最高の滑りを見せられる確信があったというが......。

「千秋楽は朝の練習でツイズルを直して、めっちゃよくなったんですよ。(本田)真凜とも近くで滑れているし、ふたりで『これ、やろう!』ってなりました。それで本番は回りすぎるミスって(苦笑)」

 宇野は昨年7月のインタビューで、そう失敗談を明かしていた。

「あれこそ、アイスダンスの難しさですね。ふたりで滑るっていうのは本当に難しい。近い距離で邪魔にならないようにと考えると、どこにいてほしいの、どこにいないほうがいいのっていろいろ考えて、マジでわかんなくなる(笑)。

 ただ近い距離でタイミングを合わせると、それだけで"すごいように"見えるし、言い方はおかしいですけど、ふたりがピッタリ回るってこんなにすごいんだなって思いました」

 壁を乗り越えて、ふたりは『Ice Brave2』で進化したダンスを見せていた。

「これからどんどんよくなるはずです!」

 宇野は快活に言って、前を向く。

『Ice Brave2』は11月14〜16日に東京公演、11月29〜30日に山梨公演、12月6〜7日に島根公演、そして来年1月24〜25日に宮城公演が予定されている。公演のたび、変わり続ける。同じショーはひとつもない。

終わり

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著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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