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青木祐奈がNHK杯で涙のグランプリシリーズ初表彰台 「隠れたい」と思うほどの苦難を乗り越え (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【滑りながら幸福感でいっぱいだった】

 そして迎えた翌9日のフリー、彼女は再び氷上に物語を紡ぎ出す。

 ピンクに赤い柄の入った衣装に身を包んだ彼女は、春の花びらのように華麗に舞った。『Popsical』の曲そのものに入り込むような演技。スピン、ステップはすべてレベル4だった。

 コレオも高いGOE(出来ばえ点)を叩き出した。サルコウ、アクセル以外のジャンプで回転不足がついてしまったことで、得点は思ったよりも伸びなかったが、演技が終わると会場は総立ちだった。

 フリーは125.29点で5位も総合195.07点で3位。涙の銅メダル獲得だ。

「(2021年の)全日本選手権では最下位(SP30位)になってしまい、隠れたい、誰も見ないでって気持ちになって、その時もスケートから離れようと思っていました。昨シーズンから今シーズンにかけて現役を続けることにしましたが、スケートアメリカはコンディションも整わずに不調で結果(7位)を出せないのが悔しくて。続けて正解だったのかって思ったこともあります」

 彼女はその心境を明かす。GPシリーズでは、ジュニアも含めて表彰台に上がったことはなく、成績的には辛酸をなめてきた。しかし苦難を感じながら、じっくり身につけたスケーティングがあったからこそ、その花が開いたとも言える。

「今日は滑りながら、自分も幸福感でいっぱいでした。大きな会場で、最後のステップが終わったところから、みなさんが拍手をしてくださって。自分が滑っているだけなのに、たくさんの拍手をもらえるというのは現役選手でしか感じられないこと。その喜びをあらためて感じました。おかげで表彰台にも立てましたし、この経験をこれからの自分にプラスにしていきたいなって思います」

 青木は全力でスケートと向き合ってきた。その生き方はこれからも変わらない。

「次の全日本より先のことは考えていなくて。全日本までできること、やるべきことをやっていきたいと思っています。(フリーで回転不足になった)ルッツは調整して、せっかくなのでプラスをもらいたいし、回りきれるように。自信をもってアピールしながら、自分らしく!」

 彼女は品のある愛らしい笑みを浮かべた。そのスケーティングは、一つの実りを迎えようとしている。

著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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