浅田真央「つらいことがあっても負けずに輝くんだ!」『フレンズオンアイス』で表現した人生 (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【悲劇を歓喜に転換するヒロイン】

 ショー第2部の終盤、浅田は『Chandelier』でソロナンバーを滑っている。人間の情念を感じさせるプログラムだった。

「『深夜のシャンデリア』という曲で、苦悩を表現しています」

 浅田はそう説明している。実際、衣装も白いシャツの一部は、心が血を流したように赤く染まっていた。演技中の表情は悩ましく、髪もバッサリと切って、曲のプロモーションビデオのイメージに近づけたという。

「(ショー全体のテーマが)宝石の輝きなのですが......私はスケートを滑っていて、楽しい、幸せだけではなくて、どこか大変でつらいこともあって。でも、負けずに輝くんだ! というところがあるので、そこを表現しました。そういうすべてを、皆さんに見てもらえるように」

 浅田は、「明日が存在しないように生きていく」という悲壮な歌詞に体を揺らし、滑っている。暗さも漂う曲だが、力強いボーカルに合わせたつややかなスケーティングで、「必ず来る明日を生きる、だから今は苦悩を吐き出す」という深夜の一瞬の慟哭(どうこく)を表現していた。

 小手先の技術ではない。歌声や音の一つひとつに感情を乗せられるからこそ、人の心を惹きつけるのだ。あるいは、彼女がスケーターとして生きてきた道のりも、そこに重なっているのか。

 浅田が座長を務めているアイスショー『BEYOND』もそうだが、彼女自身が物語の主人公になるだけの人生を歩んできた。『BEYOND』は「何度だって立ち上がる。これは、私たちの進化の物語。」と銘打っていたが、それは彼女のスケート人生にも通じるところがあった。明朗で、不屈で、前向きな生き方だ。

 現役時代、浅田は全日本選手権で6回優勝し、グランプリファイナルも4回制覇、世界選手権でも3回にわたって女王になっている。しかし、栄華だけではない。苦しみも伴っただろう。

 たとえばオリンピックは、たびたびドラマチックだった。2006年のトリノ大会は年齢制限で逃すことになった。2010年のバンクーバー大会では、記憶に残る銀メダルを受賞したが、2014年のソチ大会ではメダルに届かなかった。しかし、ショートプログラムの失敗からフリーで巻き返し、むしろ忘れられない感動を呼んでいる。

 悲劇を歓喜に転換する生きざまが、彼女を真のヒロインにしたのだ。

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