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小説『アイスリンクの導き』第2話 「原点回帰」 (2ページ目)

 人生で初めてのリンク。

 翔平にとって、それは今も胸が疼く出発点だ。

「スケートが初めてのみんなが多いと思いますが、転んでもめげないで頑張ってね。今日は思いっきり楽しんでスケートを味わってもらえたらと思います!」

 マイクを渡された凌太が、明るい声でそう挨拶をした。

「僕もみんなと同じように、初めて滑る時はドキドキしていました。今日、滑れるようになって、友達に自慢してください」

 翔平がそう続けた。マイクで通した自分の声は好きではない。

 他にも数人のコーチが来ていて、子どもたちを三つの班に分け、それぞれの面倒を見ていた。翔平と凌太はあくまでゲストコーチの格好だ。

「みんな、これ覚えておいて!」

 コーチの一人が注目を集めるように、声を張り上げた。

 子どもたちはコーチの動きを真似て、両手を広げて足のかかとを付けてハの字にし、その場で床を足踏みする。ほとんどの子どもはいざ氷の上に立つと、怖くてやるべきことを忘れてしまうのだが、中にはコツをつかむのがうまい子もいるものだ。

 いよいよリンクに入って、まずは手すりをつかんで並んだまま、床の上と同じように足踏みをした。滑る、よりも、歩く、という感覚で、氷に慣れることが大事になる。氷に乗ることができたら、あとは重心の位置を変えるだけで進むことができるからだ。

「みんな、コケる時は一人でね。お友達をつかむと、一緒に転んで危ないから」

 コーチが言う。

 子どもたちは手すりから離れると、一人二人と転んでいく。転べる方が、上達は早い。転びそうで転ばないままだと、ずっと怖さだけが残る。転んでしまえば、それほど怖いことはない。

「大丈夫?」

 翔平は転んでしまった女の子を優しく抱き起こしてあげた。

「ありがとう」

 少女が礼を言う。

「痛くない?」

「うん」

「かわいいヘルメットじゃね?」

「はい! あれ、選手だった人?」

「そうだよ」

 翔平は答える。小3では、自分が現役で滑っていた姿をきっと見たことはないだろう。
 
「ママが好きじゃって......言うとった」

「ハハ。ありがとうって伝えといて」

「うん」

 少女は再び、言われていたとおり、足をハの字にすると、ペンギンのように歩いてコーンを回って戻ってきた。子どもの習得力は高い。彼女は、きっとすぐに滑れるようになるだろう。地上で走る以上のスピードで、思うまま風を切って移動ができるような楽しさを早く覚えてほしい。それは一生の面白さになるはずだ。

 フィギュアスケートを始めた時、翔平は凌太に全くかなわなかった。それでも、ひたすら滑り込みを続けた。悔しさからではない。単純に、好きなスケートを上達したかった。一つの技を習得すると、違う景色が見えた。

 そして波多野ゆかり先生と出会い、人生は大きく変わった。

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