鍵山優真が宇野昌磨を破ってNHK杯制覇 進化した「表現力」を武器に、GPファイナルで「トップ3」に挑む (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【五輪へ向けてブラッシュアップ】

 鍵山は今季、父親の正和さんに加え、2014年ソチ五輪銅メダリストで世界選手権は優勝を含め6回メダルを獲得しているカロリーナ・コストナーさん(イタリア)にコーチを依頼した。

 その理由と経緯をこう説明する。

「ローリー・ニコル先生に振付けをしてもらう時にアシスタントとしてカロリーナ先生がいました。それからイタリア合宿などでブラッシュアップをする時に何回か教えてもらう機会があって信頼関係を積み重ねてきました。今の自分に足りないのは表現力やスケーティングの部分だとすごく感じていたので、2026年のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪へ向けてしっかり強化していきたいと、お願いをしました」

 これまではジャンプへの意識が大きくなっていたが、表現の細かい部分や体の使い方などを丁寧に指導してくれたという。そんな成果も存分にあらわれ、複雑な動きでも流れるように表現し、濃密な空気感まで出すようなステップを見せた。

 結局、フリー自体は182.88点で2位だったが、合計は288.39点にして宇野の追撃を振り切った。フランス杯では88.85点だった演技構成点を、プレゼンテーションが8.89点だった他は9点台に乗せ、90.61点に伸ばしたことも大きかった。

 演技終了後は喜びをあらわにし、天を仰いだ。

「やっちゃったなというか練習で(トリプル)アクセルを転ぶことがないのでビックリしたけど、それでも諦めずに最後までステップも踏めて、練習どおりに滑りきってホッとした。滑りきって、フゥ、みたいな感じで」

 そしてキス&クライで得点が出ると、「合計得点が表示された時はちょっとわからなかったけど、順位の『1』を見てすごくホッとしました」。

 左足首のケガが完治していない状態のなかで昨年の全日本選手権に出場した時は、鍵山の心には若手の急成長を見ての焦りもあっただろう。だが、それからしっかり休んで治療に専念し、今季も無理をすることなく一つひとつを積み上げていく姿勢を保つことができているからこその、今回の成果だ。父の正和さんとタッグを組む強みでもあると言える。

 コロナ禍で中止になって出場できなかったGPファイナルという舞台にたどり着いた。フランス杯では、ともに300点台に乗せた新世代の旗手ともいえるマリニンやシャオ イム ファと戦い、NHK杯では現・世界王者の宇野と戦った。現時点でのトップ3と目される3人とGPファイナルの前に試合ができたことも、鍵山の運の強さを思わせる。

 練習では4回転フリップにも取り組んでいるという。フリーで4回転の本数を増やすのはもう少し先になるだろうが、この優勝から彼の復活への一歩が始まった。

プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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