全日本フィギュア男子の本命・宇野昌磨はミスの気配なし。過密日程にも「できる範囲を把握して最高のパフォーマンスを」と冷静 (4ページ目)
【穏やかな王者の敵は「自分」】
しかしあえて言えば、"穏やかに見える"のが王者である。
リンクでの戦いは、激情が渦巻く中で決着がつく。王座は与えられるものではない。最高の演技を生み出すには苦しみが伴うことを、何より王者は自覚している。
「ステファン(・ランビエルコーチ)には『毎回、完璧な状態で臨めるわけではない』と言われました。完璧を求めすぎていたかなって。ずっと積み上げてきた自分の基準を下げたくなかったので、イライラしていて」
優勝したNHK杯後、宇野はそう告白していた。柔らかい笑顔を見せていたが、それとは裏腹に演技への向き合い方は峻厳(しゅんげん)だった。
「スケートで自分の人生を表現したい」
彼は昔からそう言っている。負けたくない、という感覚よりも、自分を甘やかすことを許さないという覚悟が、鬼気迫る王者の強さにつながるのか。逆風のなかにあっても、どうにか踏みとどまれる。その刹那に、彼の真実があるのかもしれない。
「自分」
それは宇野にとって、すでに世界王者にも輝いた巨大な敵である。ひるまず立ち向かう姿に、観客は息を呑み、会場は熱気が波打つ。そこに響くのはフィギュアスケートの讃歌だ。
12月23日、男子シングルのSP。宇野は第4グループ21番目の滑走になる。
【著者プロフィール】
小宮良之 こみや・よしゆき
スポーツライター。1972年、横浜生まれ。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。
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