羽生結弦「らしい質問ですね」。会見のやりとりと北京の演技を通じて記者が感じた夢を追う生きざま (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直/JMPA●撮影 photo by Noto Sunao/JMPA

 彼の生きざまにふさわしい演技とは何かと考えた時、頭に浮かんだのは上杉謙信の生涯だった。戦国武将でありながら義を重んじて戦い続け、関東管領にも就任した上杉謙信の夢は上洛して天下を治めることだった。だが、その上洛は近隣諸国との戦に明け暮れるなかで実現せず、最期は病没した(※諸説あり)。「生き方にも悩みながら夢を追い続けた姿に自分と通じるものがあった」と話した羽生は、夢を実現することができなかったとしても、上杉謙信のようにそれを追い続けて戦い抜くことができたと考えたのだろう。

 そう考えれば冒頭の4回転アクセルは、第4次川中島の戦いで武田軍の本陣を襲撃し、信玄の腕と肩に傷を負わせた太刀だったのかもしれないと思えた。最終目的は果たせなかったもの、その一筋の太刀は敵将の信玄を驚愕させ、上杉謙信という武将の存在感の大きさを存分に見せつけるものだった。

 謙信の襲撃が未完に終わったように、羽生の4回転アクセルも未完に終わった。それが『天と地と』にはふさわしかったのだろうか。さまざまなことを考える機会をもらった、羽生結弦の会見だった。

<著者プロフィール> 
折山淑美 おりやま・としみ 
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、今回の北京五輪も含めて夏季・冬季合わせて16回の大会をリポーしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追っている。

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