「集中力の天才」三原舞依がスケートカナダで自己ベスト。北京五輪出場枠争いに名乗り
スケートカナダSPの三原舞依この記事に関連する写真を見る 10月29日、カナダ・バンクーバー。グランプリシリーズ(GP)第2戦スケートカナダ、女子ショートプログラム(SP)のリンクに立った三原舞依(22歳、シスメックス)は演技後、笑顔で目を潤ませていた。「Welcome back MAI(おかえり、舞依)」というメッセージが目に入り、滑る前から感極まっていたという。
「自分の名前がコールされ、声援が湧いて、それがうれしくて。その時点でウルウルしていました。この場所で滑らせてもらえてよかったです」
そう語る三原は、『レ・ミゼラブル』を情感豊かに舞った。ダブルアクセルは完璧な着氷で、3回転ルッツ+3回転トーループは2つ目にq(4分の1回転不足)はついたが、難易度の高いジャンプをやり遂げ、3回転フリップも成功。スピンは力強さも感じさせ、レベル4だった。
ほぼノーミスで67.89点をたたき出した。5位の樋口新葉の69.41点に肉迫する7位。ケガの紀平梨花に代わってのGP出場ながら、10月中旬のアジアントロフィーで坂本花織を抑えての優勝に続き、文句なしの滑り出しだ。
五輪シーズン、三原は濃密に"フィギュアスケートを生きる"ーー。
「オリンピックは小さい頃からの夢で、目指している大舞台です。日本代表として出られるように」
今年3月のインタビュー、三原は控えめだが、凛とした声で言っていた。
「でも、そのためにはたくさんの課題があって。高難度ジャンプにもチャレンジしたいと思っていますが、まずは精度を高めつつ、一つひとつのジャンプを質のよいものにし、プログラムを力強くダイナミックに、それにエッジワークとか。日々、体の状態は違うんですけど、その日にできる自分の100%、マックスを出しきるっていうのをやっていきたいと思っています」
三原は、氷の上ですべてをなげうつように滑る。周囲が「壊れそうになるまで練習する」と心配するほど、スケートに人生を懸ける。その必死な熱は伝播し、人の心を動かし、それで彼女はまた強くなる。
それこそ、三原の最大の才能だ。
昨シーズン、三原は体調不良から1年半ぶりの復帰で厳しい状況だったにもかかわらず、むしろ見ている人を元気づけるようなはつらつとした演技を見せている。年末の全日本選手権ではSPで3位に入って、リンクを歓喜の渦にした。しかし、フリーで7位に終わって、彼女自身はトータル5位だった無念さを忘れていない。
「100%を出しきれなかった、というのは、まだまだ弱いところがあったのかなって思います。もっともっと、気持ちの面での強さをつけていかないと。オリンピックとか、世界選手権を目指すって口に出す以上は、日本を背負う形になるので。まだ実力が足りていないって、悔しさのほうが大きかったです。練習してきたことを本番で出してこそ、うれしさとか達成感へと変えられるので」
なにも言い訳にしない、真っ直ぐなスケートとの向き合い方だ。
そして30日のフリー、三原は積み上げてきたものを勝負の場で見せた。昨シーズンからの継続となったプログラム『フェアリー・オブ・ザ・フォレスト&ギャラクシー』。ピアノの音が空気をふるわせると、妖精の世界に人々を引き込んだ。
冒頭の3回転ルッツ+3回転トーループできれいに着氷すると、ダブルアクセル、3回転フリップ、3回転サルコウと次々に成功。曲が高まりを見せるなか、基礎点が1.1倍になる後半のジャンプも、ダブルアクセル+3回転トーループ、3回転ルッツ+2回転トーループ+2回転ループ、3回転ループとすべて降りた。一つひとつの動作が丁寧で、それが可憐さと生命力になって伝わった。スピンも、ステップもオールレベル4。最後は妖精が羽を広げ、幸せの粒を降らせるようなきらめきがあった。
142.12点は自己ベスト更新で、フリーでは昨シーズン、GPファイナル優勝のアリョーナ・コストルナヤを上回り、3位に入った。昨年の全日本は134.10点だっただけに、着実な進化と言える。アジアントロフィーから間もない試合で体力的に難しかったが、毎日を試練ととらえ、自らを鍛えてきたことで、演技は盤石だった。
「集中力の天才」
中野園子コーチは三原をそう評しているが、それは日々、全力を出し尽くすことで生まれるものなのだろう。
トータル210.01の得点もパーソナルベストで、三原は総合4位に入った。ロシア勢の壁は敗れなかったが、日本選手最高位。北京五輪出場に向け、すばらしい成果だ。
「みなさんを笑顔にできたり、感動を与えられたりするスケーターになれたらいいなって思います」
三原は繰り返し言う。そのための努力はいっさい惜しまない。
GPシリーズ第3戦、11月5日からトリノで開催されるイタリア大会で、三原は連戦に挑む。
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