羽生結弦、宇野昌磨、チェン...本田武史がトップスケーターを分析 (3ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha
  • 田口有史●写真 photo by Taguchi Yukihiro

 優勝したネイサン・チェン選手(アメリカ)の演技について言えば、あれだけの4回転をあの確率で跳ばれると、どの選手も、もう1種類4回転を増やさないと勝てないなと思ったはずです。特にフリーでは、何とか跳んだというのではなく、すべての4回転を軽々と降りていました。

 4回転トーループが2回、3回転トーループが2回、4回転ルッツと4回転フリップ、4回転サルコウ、トリプルアクセルがそれぞれ1回。あとは3回転ルッツと3回転フリップで、3回転以上の繰り返しはあと1種類だけになっていて、4回転はトーループで2回使っているので、もう繰り返しできるジャンプはなくなるんです。現状で考えられるプログラムの中で最高レベルのプログラムになっていました。

 平昌五輪で悔しい敗戦を喫した以後のチェン選手は、ジャンプの抜群の完成度と安定度を誇っていました。だから今回のSPでの4回転ルッツの転倒は本当に驚きでしたが、試合では2年ぶりの転倒らしいですね。2年間ジャンプを転倒しないとは、ちょっと笑うしかないです。

 そしてその4回転ルッツ転倒の後に跳んだトリプルアクセルが一番の不安要素だったと思いますが、そのジャンプをきれいに跳んでみせました。チェン選手がここ数年安定してきたのは、トリプルアクセルの成功率が高くなったからで、そこを外さなくなったことにより、他のジャンプに対する安心感も出てきたと思います。

 4回転フリップと4回転トーループに関してはまったく失敗するような雰囲気がなかったですし、トリプルアクセルの成功率が上がったこともあり、怖いものがなくなったという感じです。しかも21歳と若い。体つきも一番いい時期ですし、精神的にも落ち着いている時だと思うので、強さが充実して期待に応えられる実力をつけてきたと言えます。

 もちろん、北京五輪の優勝候補ですが、五輪は本当に何が起こるかわからない。僕の憧れのスケーターであるカート・ブラウニングが、世界選手権で4連覇してもオリンピックの金メダルだけは取れなかった。3度世界王者になったエルビス・ストイコも、五輪では金ではなく2度の銀。世界選手権3連覇のパトリック・チャンも銀に終わりました。「五輪には魔物が棲む」と言われるとおりだなと思います。

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