羽生結弦が進む自らの道。「フィギュアスケートの完成形を目指して」 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 全日本選手権の『秋によせて』や、スケートカナダの『Origin』に関して言えば、自分でもいい滑りができたと感じている。だがそれ以上に感じたのは、「自分の演技として完成できそうにないな」ということでもあった、と羽生は言う。

「それはあまりにも理想が高いがゆえに......。そしてその理想がたぶん、僕ではなく(エフゲニー・)プルシェンコさんの背中だったり、ジョニー(・ウィア)さんの背中が理想だったと思うんです。だからそう考えた時に、やっぱり僕のスケートじゃないのかなと思ったんです」

 あらためてそう思ったのは、全日本選手権翌日の「メダリスト・オン・アイス」で、『SEIMEI』を滑った時だった。その感覚が、ふたつのプログラムを滑っている時とは「カバー曲とオリジナル曲くらいの違いを感じた」という。

「『SEIMEI』も『バラード第1番』も本当は何か、もう伝説として語り継がれるような記録をもってしまっている子たちなので、できれば眠らせておいてあげたかったんですけど、メダリストの時は悔しい結果になったあの精神状態だったからこそかもしれないですが、ものすごく自分でいられるなと思って。それでもう少しだけ、この子たちの力を借りてもいいのかなと思いました」

『バラード第1番』は、ずっとやってみたかったピアノ曲として挑戦し、さまざまなことを考えながら完成させてきたプログラムだ。『SEIMEI』もまた、自分のこだわる和の世界を表現したいという思いから選び、作り上げてきたプログラムだ。さらに『ホープ&レガシイ』も、ゆったりとした自然の中に身を任せ、その世界に沈み込むような彼自身の心象風景を表現しきったプログラムだった。

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