チャンに勝利。羽生結弦の金メダルが見えてきた (3ページ目)

  • 辛仁夏●取材・文 text by Synn Yinha 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

「今季はGPシリーズの2大会までは、パトリック選手のことばかりを考えていたというか、パトリック選手とどれだけ差があるのか、どれくらいの得点差があるのか、どれくらい頑張れば追いつけるかということを、なんだかんだ言って、無意識だったと思うんですけど脳の中でちょっと分析していたところがあった。それが今大会ではまったく考えずに自分に集中して、一生懸命にやることだけを考えたのがいい結果につながったのかなと思います」

 負けず嫌いな羽生は、昨季も今季序盤も気負いが先走って空回りして自滅するパターンが多かったが、このファイナルではSPでもフリーでも、肉体も内面もしっかりとコントロールしていた。その精神面の成長が本来の力を十分に発揮することにつながったのではないか。

 昨季からカナダのトロントに練習拠点を移し、コーチも変えて、バンクーバー五輪女子シングル金メダリストのキム・ヨナを指導したブライアン・オーサーコーチに師事。トロントにあるプライベートクラブに所属してスケートを集中して練習できる最高の環境を手に入れ、優秀なコーチングスタッフの下で、スケーティングや演技面、そしてスタミナなどの身体面を強化して急成長を見せている。

 英語を理解できるようになって会話も上達した羽生と「うまくコミュニケーションができているし、絆を深めている」と言うブライアン・オーサーコーチは、羽生が世界王者チャンに「刺激をもらって着実に成長を遂げている」と太鼓判を押す。

「優秀な選手との戦いは学ぶことが多い。フランス杯でのチャンとの大きな差を縮めようというのが目標だったこの大会(ファイナル)で実際に差を縮めて、そしてチャンを超えることができて良かった。どんな大会でも必ず表彰台の一番上を目指して戦う気持ちでいかなければいけない。例え30ポイントの差があったとしても自分は勝てるんだと思い、自分はできるんだということを証明しなければならない。私も選手時代はそうでしたが、五輪を目指す選手であれば、銀メダルではなく金メダルを狙うのは当然のこと。結弦はちゃんと闘争心を持っていますので、今シーズン、チャンと3度も対戦できたことはいいことだったと思います」

 オーサーコーチはこう語って、世界王者チャンの存在が羽生の成長を促す好材料になっていることを明かした。やはり、ライバルがいるということがどれだけ刺激になるかが分かるというものだ。

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