【ボクシング】中谷潤人があらためて感じた井上尚弥のコントロール能力 来年の対戦に向けて「僕も、引き出しを多く持っていなければ」 (3ページ目)
第6ラウンドの井上は、何度も左ボディを放ってアフマダリエフにダメージを与える。翌7ラウンドには右のガードを下げたり、ノーガードでチャレンジャーを挑発したりした。
「見切った感があったと思います。ムロジョンの動きをマネするようなこともしていましたね。相手の反応を観察していたのでしょう。
9ラウンドにカウンターの右アッパーをヒットしましたよね。うまかったです。もう、ムロジョンのパンチはすべてわかったうえでの攻撃だなって、すごく感じました」
しかし、モンスターは試合終了のゴング直前、右フックをクリーンヒットされる。
「最後12ラウンドはちょっと欲が見えたじゃないですけど、まあ、若干倒しにいっている感じでした。なので、ムロジョンとの距離が近くなって、お互いにパンチが当たりやすくなりましたね」
【来年の直接対決へ「井上選手に勝つ自分を築いていきます」】
井上の次戦(12月27日)の相手、アラン・ピカソ(メキシコ)はオーソドックスである。となると、日本人頂上決戦までにモンスターが対戦するサウスポーは、アフマダリエフが最後となる。タイプも力量も違うが、ある意味でアフマダリエフを仮想・中谷潤人としたのではないか。
「僕との試合も、こういうふうにポイントアウトする策を選ぶかもしれないですし、やっぱり倒しにくる可能性も大いにあります。まあ、それはリングに上がってから、お互いの駆け引きとか......。井上選手がどう出てきても、対応できるように準備しなければいけません。僕も、引き出しを多く持っていなければ。
今回、試合を見させてもらって、やっぱり井上選手は主導権を握るのが巧みで、機動力もあって、ディフェンシブな展開も苦にしないというか。コントロール能力があることを再確認しました」
次なる決戦に備えて練習する中谷 photo by Soichi Hayashi Sr.この記事に関連する写真を見る
試合後、井上が勝利者インタビューを受けている最中、中谷はファンや報道関係者に囲まれるのを避けるべく、席を立って足早に出口に向かった。その姿を目ざとく見つけたモンスターは、リング上からマイクを握って語り掛けた。
「中谷くん! あと1勝、12月、お互い頑張って、来年、東京ドームで盛り上げましょう!」
井上はリングパフォーマンスだけでなく、自身の言動でファンのニーズに応える術を理解している。まったく嫌味なく爽やかにIGアリーナを盛り上げた。まさしく、熟練したエンターテイナーとしての顔を披露した。
中谷はその声に振り返り、何度かお辞儀をしながら両拳を突き上げる。デビューから全勝を続けるふたりの世界チャンピオンが互いを敬う光景は、いやがうえにもファンを恍惚とさせた。
「来年の試合に向けて、着々と進んでいるなと。井上選手の試合を見て、ああいう形で声もかけられて、大きな刺激をもらいました。まずは12月の試合に向けて全力を尽くしますが、井上選手に勝つために自分を築いていきます」
現在、122パウンド(スーパーバンタム級のリミット55.34kg)の肉体作りに力を注いでいる中谷。彼はバンタム級で世界王座に就いた頃から、「スーパーバンタムのほうが、より自分のよさが出せると感じます」と話していた。
ついに、メガ・ファイトが具体化してきた。カネロvs.クロフォード戦を超える熱戦を期待したい。
著者プロフィール
林壮一 (はやし・そういち)
1969年生まれ。ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するもケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。ネバダ州立大学リノ校、東京大学大学院情報学環教育部にてジャーナリズムを学ぶ。アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(以上、光文社電子書籍)、『神様のリング』『進め! サムライブルー 世の中への扉』『ほめて伸ばすコーチング』(以上、講談社)などがある。
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