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【ボクシング】中谷潤人があらためて感じた井上尚弥のコントロール能力 来年の対戦に向けて「僕も、引き出しを多く持っていなければ」 (2ページ目)

  • 林壮一●取材・文 text by Soichi Hayashi Sr.

【今回の戦い方に見えた井上のテーマ】

 クロフォードの妙技に胸を高鳴らせ、中谷はIGアリーナの客席に座る。

「井上選手側の赤コーナーが左手に見える、ニュートラルコーナーのあたりで観ました。試合前から『判定でもいい』と発言していましたが、そういう気持ちが出ていたのかなっていう感じはありました。

 井上選手はムロジョンをリスペクトして、しっかり対策していました。思いっきり入っていくと、交通事故みたいなパンチをもらうリスクがあると考えていたように見えました。ムロジョンのパンチを警戒していたのでしょう。ディフェンスに重きを置き、慎重に戦う井上選手を見て、『こんな多様性があるんだな』とあらめて感じました」

アフマダリエフを判定勝ちで下した井上 photo by Naoki Fukudaアフマダリエフを判定勝ちで下した井上 photo by Naoki Fukudaこの記事に関連する写真を見る

 慎重に試合を運んだモンスターだったが、第4ラウンドにWBA暫定王者の左ストレートを喰らう。

「そんなに深刻なものだとは思いませんでした。ダメージを負うような感じではなかったですし、ムロジョンもアマチュアで豊富な経験を積んでいますから、当てる感覚が優れている印象がありました」

 これまでの井上はノックアウトにこだわり、重いパンチをガンガン振るっていくイメージがあったが、距離を取ってポイントを稼ぐ。

「井上選手はあまり踏み込まずに、安全な距離でしっかりパンチを伸ばしていました。"いこう"という気持ちを、あえて止めているようでした。

 ムロジョンは立ち上がりの1、2ラウンドはけっこういい動きをしましたね。たとえパンチを出さなくても、間合いを計っていました。ただ、4ラウンド目くらいから、『攻撃のバリエーションがそれほどないな』と感じざるを得ませんでした。ずっと幅のない単調な戦い方でしたから、井上選手にとってやりやすい展開だと。井上選手はアングルをつけることもできましたし、パンチを遠くから投げて当てることも可能でしたね」

 それでも井上は、ポイントアウトする道を選んだ。

「6ラウンド以降は、『倒しにいかないんだな』と感じていました。ムロジョンの一発を警戒すると同時に、今回の試合に関するテーマだったと察します。ルイス・ネリ戦、カルデナス戦のダウンについて、いろいろな意見が飛び交っていて、そういった見方に対して思うところもあったでしょう。試合後に井上選手本人も語っていましたが、『自分は衰えていない』ということを見せつけたかったんじゃないですかね」

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