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中谷潤人は日本人王者が占めるバンタム級でも格が違う 強すぎる王者はマービン・ハグラーを彷彿とさせる (4ページ目)

  • 林壮一●取材・文 text by Soichi Hayashi Sr.

【伝説の王者と共通する強さ】

 WBC指名挑戦者を下せば、次戦でWBA王者、井上拓真との統一戦が決まりつつあった。しかし、中谷vsチットパッタナ戦の前日に井上が敗れたことで、同プランは白紙となった。
 
 ご存知のように、現在53.52キログラムのバンタム級は、WBA新チャンピオンの堤聖也、IBFの西田凌佑、WBOの武居由樹と、主要4団体の王者すべてを日本人が占めている。だが、同じチャンピオンでありながら、まるで格が違う。中谷はほかの3名を凌駕している。現時点でバンタム級のベルトをすべて束ねて当然の実力者だ。

 統一戦を熱望する中谷だが、すんなりと決まるだろうか。事実、去年にはWBOスーパーフライ級1位として挑むはずだった当時の王者、井岡一翔に"避けられた"経緯がある。

 他団体のチャンピオンたちがハートを見せればいいが、強すぎるがゆえに、対戦相手やビッグマッチに恵まれない。そんな中谷の現状は、統一ミドル級タイトルを12度防衛した故"マーベラス"マービン・ハグラーを彷彿とさせる。

1970年から80年代にかけてミドル級で活躍したハグラー photo by Soichi Hayashi Sr.1970年から80年代にかけてミドル級で活躍したハグラー photo by Soichi Hayashi Sr.この記事に関連する写真を見る

 なかなかチャンスを得られないハグラーを、かつてヘビー級王座に就き、モハメド・アリと3度の激闘を繰り広げたジョー・フレジャーはこんな言葉で慰めた。

「おまえには3つの難点がある。黒人であること、サウスポーであること、そして強すぎることだ」

 その後、ハグラーは険しい状況を乗り越え、自らの時代を築いた。

 2004年12月に筆者がインタビューした折、ハグラーは語った。

「人間には各々の生き方がある。『己が何者であるか』を把捉しなければいけない。そして、自分に適した道、夢、目標を達成するために何が必要なのかを解することが肝心だ。歩み方はそれぞれ異なるが、ゴールに向かって努力するという作業は同じじゃないかな。人は自らが望んだことに対して、決意を持たなきゃならない。それから、自分を犠牲にすることも大事だね。『自らを捧げる』行為が夢の実現に繋がるんだ。大抵の人は、この犠牲の意味がわからないけれど」

 中谷潤人は、自らをボクシングに捧げることのできる男だ。ハグラー並のアーティストとなる可能性を十分に秘めている。そして、メンタルの強さもハグラークラスだ。近々、飛躍となる大舞台が用意されることを切に願う。

著者プロフィール

  • 林壮一

    林壮一 (はやし・そういち)

    1969年生まれ。ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するもケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。ネバダ州立大学リノ校、東京大学大学院情報学環教育部にてジャーナリズムを学ぶ。アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(以上、光文社電子書籍)、『神様のリング』『進め! サムライブルー 世の中への扉』『ほめて伸ばすコーチング』(以上、講談社)などがある。

【写真】左の打ち下ろしが顔面をとらえた瞬間も。中谷潤人 圧巻のKOフォトギャラリー

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