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中谷潤人は日本人王者が占めるバンタム級でも格が違う 強すぎる王者はマービン・ハグラーを彷彿とさせる

  • 林壮一●取材・文 text by Soichi Hayashi Sr.

【「ちょい打ち」からフィニッシュへ】

 第6ラウンド1分30秒、WBCバンタム級チャンピオン、中谷潤人が放った左ショートの打ち下ろしが、挑戦者、ペッチ・ソー・チットパッタナの顔面を捉える。次の刹那、中谷はグラついたタイ人チャレンジャーを仕留めにかかった。

 ワンツー、右ボディ、左フック、右ボディアッパー、左ショートストレート、右アッパー。すると、2011年のプロデビュー以来、一度もダウン経験のなかった世界ランキング1位はキャンバスに沈んだ。

10月14日、第6ラウンド2分59秒で挑戦者をKOし、2度目の防衛を果たした中谷(左)photo by Hiroaki Yamaguchi/山口裕朗10月14日、第6ラウンド2分59秒で挑戦者をKOし、2度目の防衛を果たした中谷(左)photo by Hiroaki Yamaguchi/山口裕朗この記事に関連する写真を見る

 中谷は一瞬、「これで終ったか」と感じたが、チットパッタナは起き上がる。ファイト再開後、チャンピオンは、とにかく相手を削ることに集中した。

 試合終了からおよそ8時間後、中谷は同タイトル2度目の防衛戦を振り返った。

「アゴへのアッパーでチットパッタナの体が上向きになったところで、コーナーから『ワンツーを打て!』という声が聞こえました。それで、何度か繰り返しましたね」

 左ストレートで2度目のダウンを奪うと、レフェリーが両腕を交差し試合終了。76勝(53KO)1敗だった挑戦者は、キャリア2つ目の黒星を喫した。

「チットパッタナは、いい選手でした。パンチ力はそこまで感じませんでしたが、運動量も多く、表情が読みづらく、淡々とこなしているような印象でしたね」

 第6ラウンド2分59秒で会心の勝利を飾った中谷は、戦績を29戦全勝22KOとした。8月23日から9月24日までのLAキャンプで162ラウンド、帰国後は所属するM.Tジムで、さらに74ラウンドのスパーリングをこなしたが、テーマとしていたのがアゴへのアッパーと、本人が「ちょい打ち」と呼ぶ接近戦における左の打ち下ろしだ。両パンチが試合を決めた。

 WBCバンタム級王者は話す。

「試合開始直後は、なるべく相手のパンチが届かないところに頭を置くことを意識しました。(自分の)ジャブがキレていて、当てさせてくれたので距離のコントロールができましたね。初回は左ストレートより右ジャブがヒットしました。『このままなら、いずれストレートも当たるな』と。変化をつけるために、ジャブと同じモーチョンで右フックも打ちました」

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著者プロフィール

  • 林壮一

    林壮一 (はやし・そういち)

    1969年生まれ。ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するもケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。ネバダ州立大学リノ校、東京大学大学院情報学環教育部にてジャーナリズムを学ぶ。アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(以上、光文社電子書籍)、『神様のリング』『進め! サムライブルー 世の中への扉』『ほめて伸ばすコーチング』(以上、講談社)などがある。

【写真】左の打ち下ろしが顔面をとらえた瞬間も。中谷潤人 圧巻のKOフォトギャラリー

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