110年ぶりの新入幕優勝を果たした尊富士は「人が喜んでくれるから相撲を取る」 いまは恋愛よりも「親や地元の方々への恩返し」 (3ページ目)

  • 飯塚さき●取材・文 text by Iizuka Saki
  • 中村博之●写真 photo by Nakamura Hiroyuki

【いまは恋愛よりも親孝行や地元への恩返し】

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――息抜きには何をしていますか。

尊富士 付け人とごはんに行くこと。自分、ひとりでご飯食べるのは好きではないんで(笑)。近所の焼肉とか、クッパみたいなスープごはんが好きなので、韓国料理屋にもよく行きます。

――ふだんの食事で気をつけていることはありますか。

尊富士 栄養はめちゃくちゃ気にします。腸内環境が整っていないと栄養が行き届かないと思い、ヨーグルトを毎日食べています。主観ですが、腸が活発になっていると体幹にも力が入るように感じています。本当かわからないけど、自分としてはそう感じられる部分もあるので、そうやってなんでも相撲に生かせるように考えています。

――ウエイトトレーニングは?

尊富士 好きです。どうやったら筋肉は変わるのか、どういう食事を摂ればいいのかなど、大学の時に自分なりにYouTubeなどでかなり勉強しました。あとは、宮城野親方(元横綱・白鵬)に「どうしたら親方みたいになれますか」と、積極的に自分から聞くようにしています。

いま一番鍛えたいのは下半身。でもこの間、横綱に「ウエイトしすぎ」って言われました(苦笑)。好きだから暇があればジムに行ってしまうんですが、やりすぎてしまうと可動域に影響が出てくるので、気をつけないといけないですね。

――ほかに、生活で気をつけていることは。

尊富士 悪い女性に引っかからないようにすること。

――あ、それは大事......(笑)。

尊富士 (笑)。でも、いまは恋愛したい時期じゃないです。どこに出かけても目立つし、息抜きは付け人とご飯に行ければいいかなって。だったら、いまできる親孝行や地元の方への恩返しをしたほうが、僕はいいなと思っています。

――宮城野部屋の伊勢ヶ浜部屋への移籍に伴い、4月から稽古環境もガラッと変化しました。40人を超える大所帯の部屋となり、現在の様子はいかがですか。

尊富士 最初こそどうなるかと思いましたが、みんな切磋琢磨して、お互いにいろいろと聞き合っています。(高校の後輩である)伯桜鵬からも「先輩、立ち合いはどうやって意識していますか」と聞かれました。いま、一番稽古が面白い部屋だと思います。見渡すと"横綱"が3人いるんですから(笑)。

――本当にそうですよね。関取から見ていて、特にすごいなと思う人はどなたですか。

尊富士 いろんな人を見て、すごいなと学んでいます。本当に全員に個性があって、期待の星ばかり見ている感じです。みんないつか番付が上がって、関取衆がいっぱいになるのかなと想像します。年下でももちろん、すごいと思ったら本人に直接伝えます。たとえば、先場所幕下付出で入ってきた松井。いい相撲を取るな、自分の相撲に似ているなと思って声をかけました。勝てないときにはどうしたらいいか、磨いたらいい相撲になるからとアドバイスもしました。

――よりよい稽古環境で素敵ですね。力士として、これからどんなことに挑戦していきたいですか。

尊富士 ずっと相撲だけの人生を歩んできました。25歳は若いかわからないし、相撲以外の人生経験もしてみたい。でも、相撲によって、凱旋パレードとか普通の人ができないような経験をさせてもらえているわけですから、僕は僕にしかできないこともあるなと思っています。

――故障した右足首の調子はいかがですか。

尊富士 (夏場所の出場は)ギリギリにならないとわかりませんが、出られるなら出たいです。いまは自分でできることをしていて、ケガは四股で治します。

――今後、長い目で見た目標は。

尊富士 相撲をする未来の子どもたちに、「尊富士に憧れていた」と言ってもらえるような人間性を持ちたい。そのために、いまできることを精一杯しています。

前編>>尊富士が成し遂げた110年ぶりの新入幕優勝の裏側

【Profile】尊富士(たけるふじ)/1999年4月9日生まれ、青森県五所川原市出身。本名・石岡弥輝也。木造中(青森)―鳥取城北高(鳥取)―日本大。幼少期から相撲を始め、わんぱく相撲全国大会など、各世代の全国トップレベルで活躍。大学卒業後、2022年8月に大相撲入りを表明し、秋(9月)場所に前相撲から初土俵。その後場所ごとに順調に白星を重ね、2024年の初(1月)場所から十両に昇進し優勝。新入幕を果たした春(3月)場所では、新入幕の力士として最長となる初日から11連勝、110年ぶりの幕内優勝を果たした。

プロフィール

  • 飯塚さき

    飯塚さき (いいづか・さき)

    1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)、Yahoo!ニュースなどで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』では構成・インタビューを担当。2024年1月3日、TBS『マツコの知らない世界 新春SP』に貴景勝らと出演し、ちゃんこをはじめとする絶品「相撲メシ」を紹介した。

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