いじめで不登校、無視したとケンカを売られ...耳の聞こえない女性がプロボクサーになるまで「臆病者だから、強くなりたかった」 (4ページ目)

  • 泊 貴洋●取材・文 text by Takahiro Tomari
  • 山本雷太●撮影 photo by Yamamoto Raita

【全身に振動が伝わるボクシングとの出会い】

 高校卒業後は、3年制の歯科技工士養成校に進学。しかし夜遊びをしたり、バイクを乗り回したりして、留年してしまう。そして2度目の2年生を送っていた21歳の時に始めたのが、ボクシングだ。

「聞こえないと、『声をかけたのに無視された』と思われて、いきなりケンカを売られることがあるんです。怖いんですよ、世の中(笑)。それに私はもともと臆病者なので、強くなりたかった。護身術を身につけたいと考えた時、たまたま家の近くにあったのが、ボクシングジムでした。体験入会をしてサンドバッグを叩いてみると、音は聞こえなくても、振動が全身に伝わってくる。普段味わえない感覚が得られて、快感でした」

 最初は「フィットネス感覚だった」というボクシング。のめり込んだのは、「負けず嫌い」に火が点いたからだ。

「入会して3カ月くらいあとに、スパーリングをすることになって。その時、相手にボコボコにされて、いっぱい星が飛んだんです(笑)。それが悔しくて、本格的にボクシングをやるきっかけになりました」

 後編では、10年後にプロデビューし、現在に至るまでの話を聞いていく。

現在はボクシング指導も行なう現在はボクシング指導も行なうこの記事に関連する写真を見るインタビュー後編<「恵子、プロになれ」試合出場を却下され続けた女性ボクサーを勇気づけた盲目の指導者の言葉「ずっと誰かに言ってほしくて」>

協力/Splicing Brazilian Jiujitsu Girl's Fun Boxing Gym 東京手話通訳等派遣センター

参考文献/小笠原恵子著『負けないで!』(創出版) 

場面写真/(C)2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会 COMME DES CINÉMAS

【プロフィール】
小笠原恵子 おがさわら・けいこ 
元プロボクサー。1979年、埼玉県生まれ。21歳からボクシングジムに通い始め、2010年4月にプロテスト合格。同年7月、プロデビュー戦に勝利する。2011年、3戦目となる試合でTKO負けするも、2013年に2年ぶりの試合で勝利して引退。2011年、自伝『負けないで!』(創出版)を刊行。現在は手話とブラジリアン柔術を学べる「手話柔術教室」を開いている。

【作品情報】
『ケイコ 目を澄ませて』
監督/三宅唱
原案/小笠原恵子『負けないで!』(創出版)
出演/岸井ゆきの、三浦友和、三浦誠己、松浦慎一郎、仙道敦子、中村優子、渡辺真起子、佐藤緋美、中島ひろ子
配給/ハピネットファントム・スタジオ
ゴングの音も、セコンドの指示も聞こえない。生まれつきの聴覚障害を抱えながらボクシングのプロテストに合格し、リングに立ったケイコ。デビュー戦で勝利を収めたものの、実戦の恐怖や周囲の心配を感じ、心に迷いが生じ始める。そんな時、会長の体調不良や経営難から、ジムの閉鎖が決定。ケイコは再び試合に挑む......。2022年のベルリン国際映画祭や東京国際映画祭に正式出品された話題作。「映画を見て、自分も何かにチャレンジしてみようと思ったり、やりたいことを諦めないで実行してみようと思ったりしてもらえたらいいなと思います」(小笠原恵子さん)

12月16日(金)テアトル新宿ほか全国公開
公式HP>>

【著者プロフィール】
泊 貴洋 とまり・たかひろ
ライター。雑誌『演劇ぶっく』(現・えんぶ)の編集者時代に、演劇と映画の学校「ENBUゼミナール」の立ち上げに参加。1999年、映画雑誌『ピクトアップ』を創刊。2004年、独立してフリーライターに。以降、『日経エンタテインメント!』や『Pen』などの雑誌やウェブ媒体にて、映画監督、俳優、クリエイター、企業人などへの取材を行なう。著書に『映画監督への道』、『ゼロからの脚本術』(ともに誠文堂新光社)、『映画監督になる』シリーズ(演劇ぶっく社)などがある。

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