結婚後もハードコアマッチで味わう「生きてる感じ」。ハイパーミサヲは「らしくあらねばならない」という概念を破壊し続ける (3ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko
  • photo by 林ユバ

 代表作は、1974年の実験的パフォーマンス「Rhythm 0」。アブラモヴィッチは観衆の前に身をさらし、観衆に72の道具(口紅、香水、はさみ、ナイフ、鞭、注射器など)を与え、6時間にわたって彼女の体に対して意のままにそれらの道具を使わせた。次第に観衆の自制心が薄れていき、彼女の服を引き裂く、叩く、血を飲むなどの欲動に走り始め、遂には装填した銃を身につけた男が彼女を脅かすまでに至った。あまりの恐怖で、終演後、彼女の頭髪の一部は白髪になったと言われている。

「私も自分の人生のすべてをプロレスに出したいと思っていて。人の残酷な部分とかもそうだし、人生をプロレスで表現したい。私が憧れたプロレスラーって、高木さんとか、(マッスル)坂井さんとか、人生をそのままプロレスに出している人たちなんですよね。自分が今までやってきたいろんな失敗も、プロレスだったら表現として昇華できる」

 自分の体を作品の一部として傷つけるという点において、アブラモヴィッチのパフォーマンスとプロレスは似ている部分があると考えている。傷つけることが目的ではなく、表現の手段として傷つくこともある。わかりやすいのが、ハードコアやデスマッチだ。

 2018年5月3日、東京女子プロレス・後楽園ホール大会にて葛西純とエニウェアフォールマッチで対戦。パイプ椅子、ラダー、テーブルを使った過激な試合展開になった。そこでミサヲはハードコアの楽しさに目覚め、2021年12月18日、DDT・名古屋国際会議場イベントホール大会において、勝俣瞬馬とハードコアルールで対戦。竹串を額に差し合い、大量の画びょうにまみれ、試合はデスマッチの様相を呈した。

「楽しかったですね、すごく。やっぱり、わかりやすく痛いですよね。プロレスの受け身で緩和される痛みじゃないんですよ。画びょうとかレゴとか、受け身の取りようがないので、本当にダイレクトにくる。逃げ場のない痛みというか。そこで"生きてる感じ"を味わっているんだと思います。チャンスがあればハードコアマッチもデスマッチももっとやりたい」

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