2021.07.25

柔道・髙藤直寿の頭の中にあった五輪攻略本。金メダル獲得へ「その通りに動けば絶対負けない」

  • 松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu
  • photo by JMPA

 円熟の金メダルである。厳しい試合、我慢の連続だった。だが、悔恨のリオ五輪銅メダルから5年。柔道男子60キロ級の髙藤直寿が巧者ぶりを発揮し、日本勢初の金メダルをもぎとった。勝利の瞬間、右こぶしを突き上げた。28歳は「いや、もう渋い試合をしたなと思いました」と言った。

東京五輪で日本人初の金メダルを獲得した柔道の髙藤直寿東京五輪で日本人初の金メダルを獲得した柔道の髙藤直寿

「絶対、テレビの人にはわからないだろうなって。でも、これが僕です。豪快に勝つことができなかったけど、これが僕の柔道です」

 髙藤の柔道は変わった。豪快さは鳴りを潜め、いわば泥臭くなった。周到に準備を重ね、畳の上では勝負に徹する。とくに準々決勝のルフミ・チフビミアニ(ジョージア)戦。2016年リオ五輪の敗戦がフラッシュバックしたという。

 相手は、返し技を得意とする。だから、髙藤は無理に前に出ようとはしなかった。髙藤は「前に出ていこうとする気持ちが自分ではこわかった」と振り返る。延長戦に突入したが、最後は相手の反則に救われた。

 準決勝も決勝も延長戦にもつれ込んだ。決勝では台湾の新鋭、楊勇緯に手を焼いたが、左つり手で相手の右手を自由にさせない。組み手争いで優位に立った。延長戦の末、相手の指導3つ目の反則で勝った。

「計算通りでした」と、それまで指導の数が1つ少なかった髙藤は言った。「相手も手詰まりだったんで。両者、(指導)狙いでいいかなって。それが一番、無難な、確実な勝ち方だったんです」

 地味ながらも、そこに髙藤の成長の跡が垣間見えた。5年間の努力が凝縮されていた。自動車に例えれば、道(相手)に合わせ、アクセルとブレーキを巧みに踏み分ける。相手に応じて、押すときには押して、出ない時には出ない。リオ五輪からの成長を問えば、髙藤はこう、答えた。

「この5年間、勝ちに徹する柔道をしてきました。組み手だったり、受けの強さだったりというのを磨いてきました。プラス気持ちで、金メダルを獲れたんだと思います」

 技術的には「組み手の手順ですね。手順さえ間違えなければ負けない。自分の頭の中に攻略本をつくって、その通りに動けば絶対に負けないと思っていました」。

 そして、こうも漏らした。「とにかく、(柔道を)やり込んだ5年間だったんで。正しい努力をすれば、裏切らないと思いました」。