2018.08.23

レスリング「栄監督解任の影響説」払拭へ、
川井梨紗子は勝つしかない

  • 佐野美樹●取材・文・撮影 text & photo by Sano Miki

 あまりに一瞬のことで、誰もが目を疑った。

 アジア大会レスリング女子62キロ級・準決勝の第2ピリオド開始早々、川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)はモンゴルのオーコン・プレブドルジにタックルを入られると、そのまま一気に後ろに倒されて、あっという間にフォールの体勢に持ち込まれた。オーコンの押さえつける力強さに川井はほとんど抵抗できず、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。

 それは、ものの15秒の出来事だった。

準決勝でフォール負けを喫し、マットから起き上がれない川井梨紗子 川井はリオ五輪で金メダルを獲得してから今まで、国内外の公式戦では一度も負けたことがなかった。しかし、3年ぶりとなる敗北が、自分でも状況が飲み込めないほどに一瞬で、なおかつフォール負けとは想像すらしていなかっただろう。本当に、「一瞬の隙」を突かれた形だった。

 試合終了後、マットに背をつけたまま川井は、しばらく呆然と天井を仰いだ。その後、審判から何度も手を差し伸べられて立つように促(うなが)されたが、なかなか立ち上がることができなかった。あまりに呆気ない幕切れに、しばらくは涙すら出てこなかった。

 オリンピックチャンピオンとして臨んだ、今回のアジア大会。「優勝」は絶対的なノルマだと考えていたに違いない。

 過去のアジア大会では、吉田沙保里(至学館大職)や伊調馨(ALSOK)を筆頭に、日本の女子レスリングは他国から嫌がられるほど、毎回金メダルを量産してきた。今大会は自分がエースとなって、金メダルラッシュを牽引するつもりだったはずだ。

 しかしこの日、女子4階級中、金メダルはゼロ。川井自身は3位決定戦で意地を見せ、テクニカルフォール勝ちでなんとか銅メダルは死守したものの、自分の不甲斐なさからか、勝利した直後、目には涙が溜まっていた。

 試合後、この日の日本勢が金メダルを獲得できなかったことを記者から問われると、それまで気丈に振る舞っていた川井は思わず、声を詰まらせた。