比嘉大吾、帰ってこい。減量失敗の大罪を抱え、ふたたび立ち上がれ

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO

 9ラウンド、1分14秒――。比嘉大吾(白井・具志堅スポーツ)の足が止まり、防戦一方になると、陣営はレフェリーに棄権を申し出た。

 前日計量で制限体重をクリアできず、すでに王座を剥奪されている比嘉は、この瞬間にプロ16戦目にして初の敗戦を喫し、16試合連続KO勝利という日本新記録更新の夢も霧散した。

 敗者となった比嘉は、額(ひたい)の前で手を合わせ、まるで許しを請うように何度も客席に向かって頭を下げ、よろめく身体をトレーナーに支えられながらリングを降りる。

制限体重をクリアできず、比嘉大吾は大粒の涙をこぼした制限体重をクリアできず、比嘉大吾は大粒の涙をこぼした

 4月14日、午後1時10分、都内のホテルで行なわれた前日計量。計量台に乗った比嘉の体重が、なかなか発表されない。重苦しい空気のなか、リミットを900グラム超過する51.7キロと発表されると、報道陣がざわめく。2時間以内ならば、何度でも計量はできる。しかし......。

 記憶に新しい、今年3月の元WBC世界バンタム級王者・山中慎介(帝拳)vs.ルイス・ネリ(メキシコ)の計量で、ネリは1度目の計量で2.3キロ超過。2時間後の計量で1キロを落としている。

 しかし、計量台に乗る比嘉の身体を見た誰もが悟る。わずか2時間で、この絞り込まれた肉体から900グラムは落ちない、と。

 午後2時32分。タイムリミットの30分以上前に、具志堅用高会長がひとりで報道陣の前に現れ、「重大なことが起こりました。本当に申し訳ありません」と言って深々と頭を下げた。

「本人は一生懸命、努力しました。それでも、汗がひとつも出ません」

 この瞬間、比嘉が保持していたチャンピオンベルトは剥奪される。

 比嘉の減量苦は以前から囁(ささや)かれていた。

 しかし、どれだけ理由を並べても、結果こそがすべてだ。比嘉が残した大きな汚点が消えることはない。JBC(日本ボクシングコミッション)は、体重超過により王座を剥奪されたネリを日本での無期限活動停止処分にしている。比嘉には1年間の国内試合出場禁止の厳罰が科せられる可能性が極めて高い。

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