村田諒太らチャンプが輩出。京都廣学館ボクシング部が育む「拳の哲学」 (4ページ目)

  • 内田暁●取材・文・撮影 text by Uchida Akatsuki

 基礎練習って、退屈じゃないですか? 誰もができるし、手を抜こうと思えばいくらでも抜ける。でも、そこで抜かないことが次のステップにつながるんです。走ることもそうですよね。漫然と走るのと、タイムなどの目標を設置して走るのとでは、まったく中身が違ってくる。そのような態度の違いを生むのは何かと言えば、人間性です。なので、武元先生は人間の内面も大切にされていました。挨拶をするというのも、そのひとつです」

 現在の部員たちに「廣学館のボクシング部が他の学校と違う点は何か?」と問うと、ほぼ全員が「上下関係が厳しい」「挨拶や言葉遣いをきつく指導される」と声を揃える。

 今も部を貫く、武元氏の薫陶(くんとう)――。その氏の指導力が最大限に発揮され、「武元イズム」をもっとも強く植えつけられたのが、村田諒太だと西嶋先生は述懐する。

「村田は学生時代、他の先生たちでは手がつけられない存在でした。腕っぷしはもちろん強いし、頭も切れる子だった。何か言われると、先生相手でもパーッと自分の意見で言い負かすことができた。その村田を制御できるのは、武元先生だけでした」

 誰もが手を焼いた"ワル"を御(ぎょ)したものとは、頭ごなしの命令ではなく、「頭の切れる」村田を説き伏せるだけの哲学。先日のタイトルマッチで勝利し、リング上で涙を浮かべた村田は、王者の重責を背負う覚悟を、その「恩師」から授かった言葉にのせた。

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