錦織圭「これが自分なんだ。潜在能力はまだあった」 手にした完全復活へのカギ (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【冗談交じりに「僕が強すぎたのか」】

 実は今大会の開幕前、錦織は過去2大会の自分の傾向として「攻め急ぎ」を挙げていた。

 理由は、復帰後200〜300位の選手との対戦が続くなかで、「自分から早く攻めようと思っていたし、実際に攻めることができる」状況に慣れてきたから。その感覚でツアーレベルの選手と戦った時、焦りにつながったという。

 その反省点を踏まえて入ったチリッチ戦では、序盤は相手の球威にも押され、じっくり戦わざるを得なかった。「自分から、バックでライン(ストレート)に打てていない」ことにもどかしさを覚えながらもしのいだ序盤は、上位レベルに身体を慣らし、自分のテニスを呼び覚ますうえで必要な時間だったのだろう。

「試合後半、特にファイナルセットはしっかり(ラリーを)作れるようなって、バックのダウンザラインだったり、フォアも思いきって打てた。徐々にテニスも上がってきたのを感じました」

 完全復調へのカギを、この試合で錦織は手にしていた。

「ちょっと変な言い方にはなりますが、やっぱ、これが自分なんだなって。やっぱり潜在能力はまだあって、それが急に出るタイミングが今日だったんだなって」

 2回戦のジョーダン・トンプソン(オーストラリア)戦に快勝(6-2、6-3)したあと、錦織が言った。身体の中に点在していたパーツがカチリと噛み合う音を、この日、彼は聞いたのだろう。

 トンプソン戦での錦織は、「若干、イメージを超えてきた。『これが入るんだ?』みたいなショットが、けっこうあった」と、自身のプレーに驚きを覚えたと明かす。攻撃的にくるだろうと予想していた相手が、やや守備的だったことを意外に感じたとも言う。

「彼のいいところを出させないようにプレーしたつもりではあるので、いいところが出る前に終わってしまったのか、僕が強すぎたのか......」

 冗談交じりにそんな言葉も口にするが、口調は朴訥で、どこか自分でも不思議に思っている様子。同時に、「これが続かなくては意味がない」と、気を引きしめることも忘れなかった。

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る