錦織圭、3年ぶり全仏OP出場のリスクとリターン「100位以内の選手に簡単には勝てない」 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【正直ハイリスクだけど出る価値はある】

 シナーも3週間前に臀部を痛めていたこともあり、序盤はお互い、様子を探りながらのラリー交換。だが、ひとたび練習が実戦形式へと移行すると、闘争本能が両者の動きを研ぎ澄ませた。チャンスボールをネットにかけた錦織が、「あーもう!」と叫んで天を仰ぐ。逆に美しいウィナーを決めた時は、その手ごたえを淡々と噛みしめた。

 1時間強に及んだポイント練習の締めくくりは、ストレートに叩き込む錦織のバックハンドウィナー。サインを求めるファンの歓声を浴びながら、ふたりは握手を交わした。

 奇しくもまさにその頃、センターコートから数十メートル離れた「コート・スザンヌ・ランラン」では、全仏2度の準優勝者であるドミニク・ティーム(オーストリア)が予選2回戦で敗退した。それは、今季かぎりの引退を表明している30歳がフランスのファンに別れを告げた瞬間でもある。

 なお、ティームの敗退から数時間後に同じコートで、元世界8位のディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)も最後の全仏での試合を終えた。身長170㎝の小さな巨人も、来年2月で現役に幕を引くと表明したばかり。31歳の決断だった。

 シナーと練習した翌日も、錦織は28位のセバスチャン・コルダ(アメリカ)、そしてダニエル太郎と会場でボールを打った。そのさらに翌日の24日、会見の席で錦織は、「さすがに(出場することを)決めました。まあ、90%くらいは」と語る。

「いきなりグランドスラムに出るのは、正直ハイリスクな気はしていますが、ハイリターンかはわからないけれど、出る価値はあるのかなと思って」

 それが、錦織の偽らざる胸の内だ。

 不安は当然あるものの、先週はモナコ、そして今週は全仏会場でトップ選手たちと練習することで、「2週間しっかりやれば、けっこう戻ってくるな」と手ごたえを感じてきたという。

 ただ同時に、ツアーを離れていた間に上位勢の顔ぶれも変わり、さらには男子テニスそのもののレベルの向上も感じていると言った。

「今は、周りの選手の強さが確実に上がっている。100位以内の選手に簡単には勝てなくなってきているというのは、全員が言っていることだし、感じてもいます」

 どの選手も弱点が少なく、大型ながらフットワークもよい。そのような新世代の筆頭にいるのが、世界1位に肉薄するシナーだ。

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