錦織圭がズベレフに取られてしまった戦略。「ガラッとプレーが変わる」ウインブルドンに期待 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 相手のダブルフォルトにも乗じて第5ゲームをブレークすると、続くサービスゲームを2度のデュースの末にキープ。最後は、相手のリターンをドロップショットでしれっと決める、実に錦織らしいポイントだった。

 追いついた錦織にしてみれば、ここで一気に勢いに乗りたい展開。

 だが、彼にとってやや誤算だったのは、ズベレフがポジションを下げ、しっかり守ってきたことだろう。錦織がコーナーぎりぎりに打ち込んだショットを、相手はコートの端から端まで走り切り、ベースラインはるか後方から驚異のカウンターを放った。

 ならばと、錦織はドロップショットを打つが、それすら広いストライドを生かして追いつき、巧みに返してくる。なんとか突破口を開くべく、ネット際の攻防に持ち込むが、ここでもリーチで勝るズベレフが優勢に立った。

 攻めあぐねた錦織のショットがラインを割って、第1セットはズベレフの手に。43分の攻防を制した24歳の「カモーン!」の叫びがスタジアムに響いた。

 第2セットに入ると、初夏の長いパリの日も落ちて、気温も急激に下降する。文字どおりの『ナイトセッション』の機運が高まるなかで、コート上のコンディションも変化していた。

「今までやってきたデイタイムだとボールが飛んでくる感じなのが、ナイトだと2倍くらいにボールの重さを感じて。そこから決めきるのが難しかったです」

 ポツリとこぼした「ボールの重さ」は、小柄な錦織を一層、厳しい状況に追い込んでいく。

「自分のほうがパワーがない分、ボールが浅くなったり、彼の重いボールに食らいついていけなかったというか......」

 試合後に振り返る錦織の言葉どおり、時間の経過とともに、ズベレフが錦織を力で組み伏せていくようだった。

 試合開始から、約2時間。最後はズベレフのリターンウイナーがコーナーをえぐり、錦織の2021年全仏オープンは4−6、1−6、1−6のスコアで終幕した。

 もし、ナイトセッションでなければ? もし、トーナメント序盤での消耗が少なく、錦織のタンクにもう少しエネルギーが残っていれば?

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る