2021.06.08

錦織圭がズベレフに取られてしまった戦略。「ガラッとプレーが変わる」ウインブルドンに期待

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 歓声と雑踏にあふれていた会場から、人の姿が消え、あとには静寂と斜陽が残る。ワイヤーで吊られた移動式カメラのモーター音が、無人のセンターコートに殊(こと)のほか大きく響いた。

 今年から全仏オープンに導入された『ナイトセッション』は、夜9時にスタートする。だが、パリ市内の夜間外出は規制されているため、8時45分にはゲートは閉じ、一般客は退出を命じられていた。

 突如観客を失ったスタジアムは、コートに立つ、たったふたりの選手の孤独感を一層際立たせる。その静けさのなか、破裂音を轟かせるアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)のサーブで、錦織圭の4回戦は幕を開けた。

錦織圭は2年ぶりの全仏ベスト8進出ならず錦織圭は2年ぶりの全仏ベスト8進出ならず この記事に関連する写真を見る  選手の大型化が叫ばれて久しいテニス界だが、2カ月前に24歳を迎えたズベレフは、その潮流を新たな次元に引き上げた新世代の旗手だと言える。

 198cmの長身を生かしたサーブとパワフルなストロークを主軸とし、最近ではネットプレーも取り入れプレーの幅を広げた。さらには、以前の大型選手に見られがちなフットワークのぎこちなさもなく、足もとのボールも難なく処理する器用さも持つ。

 それら新時代のテニスを誇示するかのようなプレーを、ズベレフは立ち上がりから披露した。バックの強打をストレートに叩き込み、最後は時速204キロのエースでゲームキープ。

 続く錦織のサービスゲームでは、決め急ぐこともなく打ち合いながら、攻撃の機と見るやフォアの強打を立て続けに打ち込んだ。連続ウイナーで早々にブレークすると、続くゲームでは、200キロ超えのサーブでエースとウイナーを連発。

「圭に主導権を握らせないためにも、今日は可能なかぎり、攻撃的に行こうと思っていた」

 のちにそう語る世界6位が、狙いどおりのスタートを切った。

 いきなりの3ゲーム連取を許した錦織ではあるが、次のゲームをキープしたことで、徐々にポイントパターンを確立していく。打つコースをギリギリまで隠したバックハンドで、広角にストロークを打ち分ける。さらにはドロップショットも織り交ぜて、相手に的を絞らせない。