大坂なおみ、混乱からの脱却。コーチはいつ「勝利を確信した」のか

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 相手のショットがラインを割るが否や、ファミリーボックスの面々は一斉に拳を振り上げて立ち上がり、円陣を組んで喜びを分かち合った。

 これまでは、勝利を見届けると席を立つことの多かった"チームなおみ"の面々が、この時はオンコートインタビューを最後まで見守り、力のこもった拍手を送る。

勝負どころでポイントを奪って叫ぶ大坂なおみ勝負どころでポイントを奪って叫ぶ大坂なおみ 安堵と憔悴の色を顔に宿すコーチのウィム・フィセッテに「寿命が縮まったのでは?」と声をかけると、「僕、本当は20歳なんだよ。すごく老けて見えるだろ?」と、ややぎこちない笑みでジョークが返ってきた。

 歓喜と疲労と、それら情動の共有と----。チームの絆と、それがあってこその勝利であることが、克明に浮かび上がる光景だった。

「タフな試合になることは、戦前からわかっていた」とは、大坂なおみとコーチの両者が、試合後に口にした言葉である。

 グランドスラムの4回戦は、大坂にとって常に、優勝か否かの分水嶺。相手は元世界ランク1位にして、2度のグランドスラム優勝を誇るガルビネ・ムグルサ(スペイン)。そして両者は、初対戦。

「タフな試合」になる材料は、たしかにすべて揃っていた。

 昨シーズンから大坂のコーチに就任したフィセッテは、データ分析と戦術立案に長けた知将として名を馳せる。初対戦となる強敵との対戦前も、フィセッテはさまざまな"レクチャー"を行なったという。

「いつものように、ビデオ・プレゼンテーションをした。ガルビネのサーブの球種やコース、彼女の弱点を示した」

 そのうえで、いかにして相手からポイントを取るか、そして勝利を得るための戦術についても話し合ったという。

 ただ、いかに動画を解析し情報を得ていても、ネットを挟み対峙した時に目にする光景や、相手から覚える威圧感は、実際にコートに立ってみなくてはわからない。

 ましてや、大坂は試合前からムグルサに対し、ある種の「畏敬の念」を覚えていたと言った。

「彼女はとてもプロフェッショナルで、感情を表に出さない。それは本当にかっこいいと思う。

1 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る