「大坂なおみのマスク」に日本の多くの選手が沈黙。高橋美穂「残念です」 (3ページ目)

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko

 言葉がないのではない。オリンピアンならば、おのずと答えは出ている。ならばなぜ、日本のアスリートは声すらあげないのか。高橋はこんなふうに分析した。

「私もスポーツ界を取り巻く同調圧力に、心を痛めています。選手たちも何をどこまで言えばいいのか、判断がつかないのだと思います。協会や所属の企業に属している以上、現在のネット社会においてトラブルを避ける傾向があります。特にトップアスリートは反響の大きさから黙ってしまう。

 それも含めて大坂さんの自立の仕方はすごいと思います。大会の最中にも関わらず、自分の発言は自分で責任を取るという覚悟ですね。そして、大坂さんのスポンサー企業であるナイキも行動を称賛しました。それはナイキもまた企業として差別はNO!だという明確な姿勢を示したことになったと思います。

 大坂さんへの反論は、実は少数だと思うんです。しかし、日本の場合は、ことなかれ主義になってしまう傾向が強いです。例えば、新型コロナウイルスで揺れた今年の3月にJOC理事の山口香さんが『選手がしっかりと練習できない現状では東京五輪は延期すべきだ』と発言されました。選手の立場を考えれば当然出て来る意見です。

 対してJOCの山下(泰裕)会長が『JOC内部の人がそういう発言をするのは残念だ』と諫(いさ)められました。しかし、同じ組織内でも同調する必要はまったくないと思います。そのために複数の理事がいるわけですから。あの時点では山口さんは自分の意見を発言しただけですし、それに活発な議論が加わるべきです」

 山口発言の数日後、東京五輪はその通り、正式に延期が決まるが、この決定のプロセスの場に山下会長の姿はなく、政治主導の判断でことが進み、JOCトップが蚊帳の外に置かれたことで、そのプレゼンス自体がひどく軽視されていることが露見した。

 山下会長は政治に蹂躙されてモスクワ五輪ボイコットの被害者となった背景があるにも関わらず、本人からこのことに対する抗議の声は聞こえて来ない。スポーツに政治が持ち込まれている、というのは、アスリートや選手出身者が政治によって「沈黙」を強いられている現在の状態のことであろう。

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