「自分の調子が悪い?」大坂なおみは「混乱の種」にどう対処したのか (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO



 大坂が精神的に乱れる時、その理由の大半は、「自分のプレーが悪い。もっと調子を上げなくては......と思い込んでしまうから」だという。そのような思考は自身への批判となり、ネガティブな感情へとつながる。

 だが、実際には多くの場合、相手が適応してきただけだということを、彼女は経験のなかから学んできた。だからこの日の試合でも、大坂ははまず、「いい選手ほど適応力も高く、スマートなものだ」との大前提を認識する。そのうえで第3セットでは、「不平を言うのはやめて、すべてのポイントで全力を尽くそう」と気持ちを切り替えた。

 この心の持ちようが、最終的に勝敗を分けた要因だろう。

 第3セットでの大坂が、大きく調子を上げたわけではない。サーブで簡単にポイントを奪えないのも、それまでの流れと一緒ではある。だが、第3セットでの大坂は、闘志を高め、ボールに食らいつき、フレームに当ててでもボールを相手コートにねじ込んだ。

 実力者が四つに組み合う力勝負は、第3セットのゲームカウント2−2を迎えた時点で、両者の総獲得ポイント数が同数で並ぶ。もちろん、そんな細かい数字を大坂が知っていたはずはない。それでも彼女の勝負師の嗅覚は、ここが勝負どころだと嗅ぎ取った。

 まずはサービスゲームを確実にキープすると、続くゲームではリターンで相手に圧力をかけ、フォアの強打を左右に恐れず打ち込んだ。最後は気力で押し込むかのようなボレーで、ブレーク奪取に成功する。その後も集中力を切らさぬ大坂は、リードを守ったままゴールラインまで走りきった。

 この勝利で大坂は、昨年9月の東レ・パンパシフィックオープンから続く連勝を、14まで伸ばしている。ただ、彼女はこの数字に大きな意味を見出そうとはしない。

「この大会では毎日、世界のトップ選手との厳しい戦いが待っている。だから私がやるべきは、試合のなかで自分でコントロールできることのみに集中すること」

 周囲が過剰に騒ぎ立てる記録や数字、そして対戦相手の調子も、自分が制御できるわけではない。

 その真理を理解したうえで、次々と迫る目の前の戦いのみに、今の彼女は全力を尽くす。

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