アンディ・マリーと英国民の確執。あれから13年...誰もが愛す存在に (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 のちにヘンマンは、「あれは僕が、スコットランドのサッカーチームをからかい過ぎたからだった」と釈明する。だが、そんな背景を知らぬイングランドの人々は、19歳のスコティッシュの言葉に憤怒した。

「ウインブルドンのロッカールームに行くと、僕宛の手紙が届いている。その文面の多くは、『お前がプレーするすべての試合で、対戦相手を応援する』というような内容だった」

 マリーは当時の狂騒を明かす。

 時に剥き出しの敵意を浴びながら戦ってきた、ウインブルドンのコート。その地で、彼が「真の英雄」として英国に祝福されたのが、トロフィーを掲げた2013年だった。

 2016年にも再びウインブルドンでトロフィーを抱いたマリーは、ロンドン開催のATPツアーファイナルズをも制し、悲願の世界1位に上り詰める。

 だが、狂気にとりつかれたかのような猛スパートによる栄光は、多大なる犠牲の上に成り立っていた。酷使し続けた股関節は、「靴紐を結ぶのも困難」なほどに痛み、2017年はウインブルドンを最後に残りすべての大会を欠場。2018年1月には股関節の手術を受け、このシーズンも6大会に出るにとどまった。

 そして、翌2019年1月――。全豪オープンを控えた会見で、マリーは涙ながらに「この痛みを抱えたまま、プレーは続けられない」と訴える。英国をはじめとする世界中のメディアは、それを事実上の「引退宣言」として報じた。

 その涙の会見の数週間後に人工股関節の手術を受けたマリーは、順調な回復とコートへ戻る意思を、自らのSNSで明かしていく。

 そして、6月。マリーはダブルス限定ながら、ウインブルドンの前哨戦に出場すると、いきなり優勝して英国の人々を驚かせた。この結果は、それまで彼の復帰に懐疑的だったメディアを色めき立たせ、数々の憶測を呼んでいく。

「果たしてマリーは、ウインブルドンで誰と混合ダブルスを組むのか?」
「今後、シングルスへの復帰はあるのか?」

 これまでとは異なる注視を浴び、マリーは13度目のウインブルドンへと向かっていった。

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