2019.05.26

錦織圭「くるみちゃんにインスパイア」。
5年前のナダル戦を思い出せ

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 錦織圭がクレーコートでの理想のテニスを頭のなかに描く時、思い出すのは5年前の”赤土の王”との、あの熱い戦いだという。

 2014年――。この年、元全仏オープン覇者のマイケル・チャンをコーチにつけた錦織は、初夏の欧州で躍進の季節を疾走していた。

全仏オープンの会場で練習に励む錦織圭 かつては「どうやってプレーしたらいいのかわからない」ほどに、苦手意識を抱いたクレーコート。その赤土の地で錦織は、守備から攻撃へのトランジションを明確にし、ボールの跳ね際を叩き早い展開力で主導権を掌握する、新たなスタイルを確立した。

 その革新性の正しさを自ら証明したのが、マドリード・マスターズの決勝戦。当時世界1位のラファエル・ナダル(スペイン)を向こうにまわし、錦織は幾度も王者を立ち往生させるエースを奪い、試合を支配し続けた。最終的には、勝利を目前にしてケガで途中棄権を強いられたが、あの試合は今でも錦織のなかで「クレーコートのベストマッチ」として、特別な地位を占めている。

 それから5年の年月が流れ、周囲が錦織に抱く警戒心や分析の目も変化した。ナダルがクレーで猛威を振るっているのはあいかわらずだが、新旧の入れ替わりも当然ながら進んでいる。かつて錦織が革新的なスタイルを引っさげ、赤土につけた足跡に、続く若者たちも少なくない。

 そのような自身の立ち位置も踏まえ、錦織は全仏直前の会見でクレーコートを「タフはタフですが、自分にあっているなと思います。ディフェンスが生かされるのがクレーだし、ディフェンスから前の動きが生きたり……」と述べたうえで、こう続けた。

「今日、くるみちゃんの試合を見ていて、すごくインスパイアされたというか、いい動きをしているなと……。ちょっと刺激になりました」

 錦織がここで言う「くるみちゃん」とは、日本女子テニス界のトップ選手である、奈良くるみ。ここ半年ほどはランキングを落とし、今回の全仏は予選からの参戦となったが、そこで厳しい3試合を勝ち抜き、本戦への切符を掴み取っている。錦織が「インスパイアされた」試合とは、その予選の決勝戦だった。