大坂なおみに起きた全豪との逆転現象。「心の先走り」が敗者を決めた (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

「あの時は、試合は終わったとも、だからといって逆転できるとも考えなかった」

 6−4、6−7、3−6の逆転で勝利したシェイは試合後、剣ヶ峰まで追い詰められた場面を、満面の笑みとともに振り返る。

「サービスエースを決められない限り、すべてのボールを打ち返すことだけを考えていた」と言うシェイは、大坂がダブルフォルトしたことすら覚えていないほどに、その瞬間のみに生きていた。

 そのシェイの姿勢は、以降も彼女に味方する。最終的に第2セットは、タイブレークの末にシェイの手に。それはまるで全豪での対戦を、演者を入れ替え再現しているかのようだった。

 2カ月前の全豪での対戦時に、大坂には心に刻んだ、ひとつの教訓がある。それは、相手に合わせるのではなく、自分のプレーをすべきだということ。あの試合での大坂は、「練習ですら打ったことがない」という中ロブを多用し、「ポイントを無駄にした」との悔いを抱いた。だからこそ今回の対戦では、「ポイントを取れるかどうかは、自分次第だと思っていた」と言う。

 だが、過去の教訓から得たその強い決意が、彼女の視界をやや不鮮明にしていたようだ。

「それは思い違いだった。彼女には、狙った時にウイナーを取る力があった」

 とりわけ大坂を悩ませたのが、クロスを打つ時と同じフォームで、ストレートに打ち込まれる鋭利なショット。

「クロスに来ると確信していたボールが、ダウンザライン(ストレート)に来ることが何度もあった」

 攻撃的なシェイのプレーが、大坂を戸惑わせた。

 シェイにこのようなテニスをさせていたのは、やはり全豪で得た教訓にあった。

「相手が何をするかではなく、自分には何ができるか、自分のベストショットは何かを考え、ゲームプランに集中した」とシェイは言う。

 さらにはもうひとつ、前回の敗戦後にシェイが口にした悔恨に、「考えすぎてしまった」「勝利を意識してしまった」がある。だから今回の対戦での彼女は、「目の前のポイントのみに集中すること」を心がけた。

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