どん底で引退も考えた土居美咲。復活のきっかけは無名少女とのテニス (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 気持ちの有り様の変化は、プレーをも変えていく。いい時のテニスが、突如よみがえったわけではない。ただ、プレーに納得いかずともガムシャラにボールを追い、泥臭く勝利を求めた。出場する大会のレベルを落とし、そこで優勝したことも、復調へのひとつの足がかりになる。

「大会のレベルを下げたことで、結果的に自分の時間でボールを打てるようになり、そこから大会のレベルを上げて......。少しずつ、ステップを踏んで上がった感じでした」

 8月には、ツアー下部大会に相当する「ITF$10万大会」を予選から勝ち上がって優勝し、9月にはツアーでもトップ50選手から勝利をもぎ取った。

「上がったといっても、まだいい時の7割くらいですが......」というのが自己評価だが、「こうやって、振り返ることができるまでにはなりました」と笑みを浮かべる。一時は300位台に落ちたところから、128位まで戻るV字回復の上昇気流に乗り、土居は2018年シーズンを戦い終えた。

 多くの浮き沈みを経験し、プロ転向から早くも10年が経った今、彼女は、この先に何が待ち受けるのか見当もつかないのだと笑った。

「若いころは、経験を積めばいろいろなことに対処できるようになると思っていたのに、実際には経験が邪魔になり、怖さが増した。だから今、自分がどこにいるのか......この先どうなるのかわからないですよ」

 ただ、その「怖さ」をも乗り越えたからこそ、今の彼女は、不確かな未来を恐れない。

「今は、この自分がどうなるのかが楽しみです。どれだけ通用するのか、どれだけやっていけるのか。どんな感じになるのかなーと」

 新たな自分と出会う新シーズンは、もう始まりを迎えている。

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