錦織圭「ここが好きだ」の自己暗示で苦手コートを克服し、難敵に完勝 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 そんなエバンスの転機は、その元コーチが昨年4月に癌のため、他界したことだった。以後、テニスに取り組む態度を大きく改めたエバンスは、今年1月のシドニー大会で決勝進出。つづく全豪オープンで4回戦に進出したときは、天を指さし、「ジュリアンがここにいないのが残念だ」と大粒の涙を流した。

 もっとも、そのようなエバンスの背景は錦織の試合とは無関係だし、それどころか錦織は全米での敗北すら「あ~、完全に忘れてました......」と、過去に置き去りにしていた。ただそれは、決して錦織がエバンスを軽視していたからではない。むしろ錦織は、エバンスを「すごく警戒している選手」だと言った。

「今年はもちろんだし、去年の後半からプレーもしっかりしてきた。フォアの攻撃だったり、ネットプレーがとてもうまい」

 だからこそエバンス戦での錦織は、いつも以上にサービスの確率と、ボールのコントロールを重視した。湿度の低いインディアンウェルズでは、ボールは飛びやすく、その制御は難しい。日によっては強風が、ただでさえ跳ねるボールを複雑に揺らしもする。時々刻々と変わるコートコンディションのなか、初戦でトリッキーな相手と戦うには、まずはリスクを回避し、状況を確かめる必要があった。

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