天然ではない。「まったく覚えてない」錦織圭の思考回路 (4ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki  photo by AFLO

「彼(ボレッリ)のフォアハンドには、注意しないと。軽く浅いボールがいくと、簡単に叩かれてしまう」

 それが、錦織がセンターコートから持ち帰り、心にとどめ、翌日にコートへと持ち帰った想いだったのだ。

 ちなみにこのボレッリ戦の勝利は、"グランドスラム通算50勝"という、ひとつのマイルストーンでもあった。だが、そのことに関して意見を求められても、「特に、なんにも思い浮かばないですね。もうちょっと増やせるように頑張ります」と応じるのみ。

 そう......錦織圭というアスリートは、目標地点に区切りを設けたり、遠く先を見て、そこまでの道程を逆算するタイプではない。純粋に「世界チャンピオン」を夢見ていた少年時代ですら、彼は「ちょっとずつ、目の前のゴールをクリアしようとしていた」のだと言った。今日よりも明日の自分が前進していれば、いずれは遥か遠くへと行ける――。そう信じて、彼は常に今を戦ってきた。

 そんな錦織のスタンスは、ドローの全体像を知ることなく、「次の対戦相手しか見ない」という現在の姿勢にもつながっている。

「今大会もドローは見ていないんですか? 先々の対戦相手については、言わないほうが良いですか?」

 会見で問われた錦織は、笑顔で即答する。

「はい、お願いします」

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