錦織圭の潔い決断。目指すべき地点は3回戦進出ではない (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki   photo by AFLO

「大会開幕前日の練習では、ほぼ痛みもなくできていたし、かなり良くなった手ごたえはあった」と、彼は言う。だからこそ、「一昨日の試合を3セットで終われていれば、そこまでダメージはひどくなかったと思うんですが……」と、フルセットまでもつれこんだ初戦を悔いた。もしかしたら、かつてのチャン・コーチがそうであったように、初戦をダメージなく乗り越えられれば、回復に向かう可能性もあったのかもしれない。少なくとも錦織は、その希望を捨てなかった。

 現実には、初戦で3時間半近くも激しく動き回ったため、「4~5セットでかなり痛みが出た。あの試合はなんとか持ちこたえたが、明日・明後日に痛みが出てくるだろうとは思っていました」と言う。苦しみをともなう様々な体験を経て、自分の身体に対する理解を十分に深めた上での、経験に即した予見であった。

 今回の棄権の決断を、錦織は自ら下したという。もちろん、コーチやトレーナーと相談した上ではあるが、「先週(ハーレ大会)のときと痛みの具合がほぼ一緒でしたし、試合ができる雰囲気ではなかったので」と、判断材料は自分の中で揃っていた。

「今日、出られないことが、一番悔しい」

 そう唇を噛みつつも、潔(いさぎよ)い決断を下せたのは、それが正しい道だとの確信があったから――。そして何より、彼の目指すべき地点は、ウインブルドンの3回戦進出ではないからだろう。

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