同世代・神尾米が語る「43歳になったクルム伊達」の魅力 (3ページ目)

  • 内田暁●構成 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

 また、芝はイレギュラーもありますが、伊達さんはしっかりひざを使って、それにも対応できています。逆に大柄な相手は、イレギュラーすると打点がブレてクリーンヒットできません。伊達さんは、そのあたりも計算に入れてるんじゃないかな?

 彼女は、あらゆる可能性を頭に入れて試合をしています。例えば以前に伊達さんが、ある選手と対戦する可能性について、こんな話をしていたことがあったんです。

「実力は、相手のほうが確実に上。でも、このスタジアムにたくさんの観客が入った環境になれば、私はノンプレッシャーだし、相手は萎縮する。そうなれば、チャンスはきっとあるよ」と。伊達さんはそういうことも、全部考えてますよ。相手が緊張してダブルフォルトすることすら考えている。「ここで来る、どこかで来る」と思っているから、実際に来たときは、「ここだ!」と見逃さないんです。心の準備ができているんだろうなというのは、試合を見ていて感じます。

中盤までは完璧だったマカロワ戦

 今回のウインブルドン・シングルス初戦のエカテリーナ・マカロワ(ロシア/世界ランキング22位)戦にしても、シード選手の相手が初戦で自分とやるのは嫌なはず、ということも考えていたと思います。

 テニスも、完璧でした。相手が何かしてくる前に、攻め込んでいましたよね。ほんの少しでもストレートに打てるチャンスがあれば、どんどん先に展開していました。そうして、相手にリズムが出てきたなと感じたら、前に出てボレーを決めたり、リターンからもネットダッシュしていました。前に出ていく見極めもすごくて、相手がスライスを打つ構えになった瞬間に、すでに足が一歩前に出ている。伊達さんは、ボレーを打つときのグリップの位置も独特で、ラリーのときよりグッと短く持つんですよ。それも含めて、見極めが早いので対応できるし、すぐにネットに出ていけます。それをやりきる心の強さも、昔以上だと感じます。
 
 ただ、最後のほうは疲れからか、ボールがクロスに集まってしまいました。相手のマカロワも、最後まであきらめなかったところは、やはりシード選手です。普通なら心が折れてしまいそうな局面でしたが、恐らく伊達さんが疲れていると感じ、最後まで粘れたのだと思います(試合は6-3、4-6、5-7でマカロワの勝利)。伊達さんとしては、すべてを出し尽くした試合だとは思いますが、きっと悔しすぎて、眠れない夜だったのではと思います。

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